日本翻訳連盟(JTF)

私の一冊『Being Mortal』

第10回:英日翻訳者 勝田 さよ さん

左が原書の『Being Mortal』(Atul Gawande、Metropolitan Book、2014年)、右が訳書『死すべき定め』(アトゥール・ガワンデ著、原井宏明訳、みすず書房、2016年)

自分で訳してみたいと強く思った本でした。

楽しみと勉強を兼ねて続けている音読や聴読用の洋書をさがす中でふと目にとまった一冊、「死ぬ運命にある」という原題が気になりました。

著者のAtul Gawandeは外科医で、The New Yorker誌などに寄稿する医療ライターでもあります。

医療の目的が疾病の治療と健康の回復である以上、医療者が正面から死を語るのは困難に違いありませんが、Gawande医師は果敢にこの難題に挑みます。現状を示しさまざまな取り組みを紹介したあと、納得して死を迎えるために医療者(そして患者本人・家族)になにができるかを、実例をまじえて考察します。それだけでも十分「良書」といえる内容ですが、最後に語られるGawande医師自身の経験が、本書に圧倒的な説得力を与えるのです。

この“力”に目を留めた方が他にもいらしたようで、ほどなく本書は『死すべき定め』という邦題で出版されました(原井宏明訳、みすず書房)。数年後、原井医師との共訳で『患者の話は医師にどう聞こえるのか』を出版する運びとなりました。縁の不思議を感じます。

◎執筆者プロフィール
勝田 さよ(かつだ さよ)
技術翻訳(英日・日英)・医療機器翻訳(英日)を経て、書籍翻訳(医療ノンフィクション)主体の生活に移行中。修行と試行錯誤の日々。訳書に『患者の話は医師にどう聞こえるのか』(共訳)、『医療エラーはなぜ起きるのか』(いずれもみすず書房)。ブログ「屋根裏通信」sayo0911.blog103.fc2.com

★次回は、株式会社テクノ・プロ・ジャパン代表取締役社長の梅田智弘さんに「私の一冊」を紹介していただきます。

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