日本翻訳連盟(JTF)

私の一冊『私家版 日本語文法』

第12回:英日翻訳者 大島聡子 さん

『私家版 日本語文法』井上ひさし著、新潮文庫、1984年

本リンクを経て得た収益は寄付されます

上手いと思う日本語の文章には形容詞が少ない。ところが、英文には形容詞が(副詞も)とにかく多い。それも主観的なものが。日本人は、自分で感じたり、察っしたりするのが好きなもの。セリフでもない地の文に主観的な形容詞が多用されていると、特に違和感を覚えるのは、そのせいもあるんじゃないか……。
なんて思っていたところ、井上ひさしの『私家版 日本語文法』に、柳田国男のいう〈形容詞飢饉〉のことが書かれていました。
西欧文明と一緒に日本にどっと名詞が入ってきた。ところがそれに見合うだけの形容詞が入ってこない。形容詞はどうしても使用者の感覚によらざるを得ないから簡単に増やせない、というのです。そもそも、(やはり)日本には形容詞が少なかったらしく……。その理由と、形容詞飢饉にどう対処したかは、『私家版 日本語文法』を読んでみてください。文法書なのに、やわらかくっておもしろい。大声で笑っちゃいます。風刺も効いています。ぜひ!

◎執筆者プロフィール

大島 聡子(おおしま さとこ)
英日翻訳者。国際関係・文化・民族
主な訳書『自己啓発の教科書』『ビジュアルストーリー 世界の秘密都市』(日経ナショナルジオグラフィック社)、映像『星のささやき』27th キネコ国際映画祭特別賞

★次に「私の一冊」を紹介してくださるのは、英日・日英翻訳者の矢能千秋さんです。

←私の一冊『エデンの東』

共有