日本翻訳連盟(JTF)

2023年度第1回JTFセミナー報告

日 時:2023年7月6日(木)
開 催:Zoomウェビナー
テーマ:新しい翻訳英文法:AI翻訳時代を生き延びるために
講演者:水野 的(MITIS(水野翻訳通訳研究所)所長)

<登壇者のプロフィール>
1972年東京外国語大学卒。(株)医学書院勤務。1988年より放送通訳・翻訳と会議通訳に携わる。2002~2007年立教大学大学院異文化コミュニケーション研究科特任教授。2011年~2017年青山学院大学文学部英米文学科教授。元日本通訳翻訳学会会長。共編著に『日本の翻訳論』(法政大学出版局)、共著に『英日通訳翻訳における語順処理』(ひつじ書房)、著書に『同時通訳の理論』(朝日出版社)。

参加者数:171人

概 要
翻訳者がAI翻訳の時代を生き延びるためには、AIにはできない翻訳ができなければならない。そのために手掛かりとなるのは、日本の翻訳や訳読の歴史の中で、「訳し上げ」に対抗する形で間歇的に主張されてきた「順送りの訳」である。
本セミナーでは「順送りの訳」を談話構造と情報構造の視点から裏づけ、新たな「翻訳英文法」を提案する。これまでも「翻訳英文法」の提案はあったが、それは「翻訳方略」のレベルにとどまっていた。セミナーでは課題文と実際の翻訳を使って情報構造の基本概念を説明し、制限的関係詞節、分裂文(強調構文)、主節の(従属節に対しての)「格下げ」など、順送りの訳の主要な方法を紹介する。理論的に裏づけられた順送りの訳は、翻訳者にたんなる翻訳方略にとどまらない確固たる翻訳の指針を提供することができる。

<講演のポイント>

  • AIにはできない翻訳
  • 情報構造とは何か
  • 「訳し上げ」を克服する
  • 「順送りの訳」の実際

<参加者のアンケートより>

  • 原文の音声を聴きながら試訳を確認することで、順送りの訳が原文の流れに沿っており思考の混乱を招かないことが確認でき、大変良かったです。
  • 読者にやさしい訳文をどう作るかのヒントになりました。
  • 翻訳本が読みにくい理由がかなりはっきりしました。「順送り」の翻訳は簡単ではないと思います。文法構造以外に情報構造、談話構造、英文のリズム、などと、日本語の構造とを考慮して、正確な意味を再現する必要があると思うからです。非常に面白い課題をいただいたと思います。
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