日本翻訳連盟(JTF)

第7回「翻訳・通訳業界調査」 クロス集計等の手法を用いた分析結果報告〈法人の部〉

講演者:JTF理事・業界調査委員長、株式会社翻訳センター代表取締役社長 二宮俊一郎さん

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3 「インボイス制度」への対応

●理解度と転換要請の方針との関連は

次はインボイス制度への対応です。回答実数は「翻訳通訳白書」に記載しておりますので、そちらをご確認いただければと思います。ここでは、「理解度と転換要請方針の関連」「理解と方針決定済企業に限定した集計」「転換要請有無と単価変更の関係」「転換要請有無と発注への考え方」についてご報告させていただきます。

まず、理解度と転換要請方針の関連ですが、みなさまに「インボイス制度をどのくらい理解していますか」という設問に回答いただいています。その回答と別に、「転換要請をする/要請しない/方針未定(まだ決めていない)」という三択での回答をいただいています。これをクロス集計にかけた結果が図15です。

これをカイ二乗検定にかけますと、「理解度」と、「転換要請する/要請しない/方針未定」という回答にはやはり関連があるという結果が出ています。ではどこが多いかというと、「十分理解している」と回答された企業には、「転換要請する」という回答が多く、「方針未定」が少ない。一方、「あまり理解してない」という回答には、「方針未定」が多くなるという結果が出てきています。非常に合理的な結果だと思います。

●調査時期の影響を減らすため企業を限定して集計

図16以降の分析では、図15の下に赤字で記載しているように、理解度が「あまり理解してない」あるいは「理解できていない」と回答いただいたデータを全部省いています。また、「方針未定」のデータも全部省きました。

なぜかというと、22年調査の時点(2022年12月19日~2023年2月28日)では、インボイス制度開始の1年近く前で、話題になり始めたばかりだったため、「まだ十分に理解していない」「インボイスっていったい何なんだ?」というところで回答いただいている部分が多いのではないかと思います。よくわかっていないというところのデータを入れてしまうと、おそらく傾向があやふやになると思いましたので、「十分理解している」と「概ね理解している」の回答だけに絞って、集計してみました。

その結果が図16です。これは「翻訳通訳白書」には全くない数字で、実数だけ記載しています。適格事業者への転換要請を「するか/しないか」は、「要請しない」という回答が多いです。さらに「単価変更をどうするか」とか「自社の考え方と一致しないときに発注の考え方をどうするか」という設問に答えていただいた結果が、こういう分解になります。

●転換要請の有無と単価変更の結果には疑問も

転換要請の有無と単価変更(図17)については設問が2つあります。適格事業者と免税事業者に対してそれぞれ、「値上げする」「値下げする」「変更しない」「要請にもとづき協議する」「協議を要請する」という回答をいただいています。それをさらに「転換要請する/要請しない」の回答で分けています。

3軸になるのでちょっとややこしいですが、左側は適格事業者に対してどうするかという問いに対して、「協議する」とか「値上げする」などの回答があります。それを「転換要請する/要請しない」で分けているわけです。右側は、免税事業者に対してどうするかをやはり「転換要請する/要請しない」で分けているのですが、色の傾向を見ていただくと、だいたい同じ濃度(色の濃さ)になっています。

私はこれがちょっと不自然だなと思います。われわれ業者側、ベンダー側からすると、適格事業者になっていただくというのは非常に有難いお話なんです。一方、免税事業者のままでいるというのは、あまり我々としては嬉しくない状況なので、この二者に対して全く同じ傾向の分布が出てくるというのがちょっと不自然な結果ではあるんですね。全く反対でなくてもいいですが、もうちょっと違ってもいいはずなのに、ざっくりと濃度を見ていただくとだいたい同じ傾向になっている。ここがヘンだなと思っています。

カイ二乗検定もしていますが、当然ながら結果は有意ではありません。調査を実施したのがインボイス制度開始の1年くらい前なので、その頃はまだ十分理解しているとおっしゃっている会社でも、実際にはまだ十分に消化しきれていない状態だったのではないか。インボイスの話題が出始めた時期に回答していますので、わかってはいるんだけれども実際やってみると、ここどうするんだっけ、といったところが出てくる。そういう状態での調査だったので、これが今、同じ設問をさせていただくと、全然違う傾向が出てくるのではないかというふうにも思います。

●転換要請の有無と発注への考え方

図18は、転換要請の有無と発注への考え方の回答結果です。

左側は、適格事業者であれ免税事業者であれ、会社の希望と一致した方に対して「今後の取引をどうしますか、発注量がどうなりますか」という設問に対して、取引量に「変化なし」「自然と増えていく」「取引量を増やすことを検討」の三択でご回答いただいています。

右側のほうは、不一致の場合どうしますかという問いに、「取引停止」「取引量削減」「自然と減る」「変化なし」の四択で回答いただいています。

それぞれの設問に選択肢がないところは灰色にしています。選択肢が全然違うので、先ほどの図17と違って単純に比較できませんが、図18のような傾向が出てきます。

これにカイ二乗検定をかけていきますと、会社希望と一致した場合は、転換要請する、要請しないとは特に関係ないという結果になりますが、会社希望と不一致になった場合は、転換要請する人としない人とで傾向が違うところが出てきます。

どこに出てくるのかというと、「取引量変化なし」の部分が、要請しない人に対しては多く、要請する人には少ないということになります。ですから、特に転換要請しないという会社は、してもしなくてもたぶん発注量が変わらないという考えの会社が多いのかと思います。

逆に転換要請する会社は、たぶんそのままだと発注量減っちゃうよね、とお考えなのかもしれないですね。しかしその差が、「取引量自然減」に出てくるほど明確な傾向ではありません。「取引量変化なし」の21と35の間に差が出てくれば明確に言えるのですが、それほどではありませんでした。

もうひとつ出ていたのが、「取引停止」です。この取引停止は、転換要請をする会社に多いです。要請しない会社1に対して要請する会社7で、明らかに多い。インボイス制度導入1年前の調査なので、まだまだみなさんきちんと消化しきれていない状況での回答だと思いますけれども、協議なしでいきなり取引停止となりますと法的に抵触する可能性もありますので、ぜひしっかりと協議はやっていただけるようにお願いしたいと思います。

〈法人の部〉まとめ

まず、景況感の変化とコロナ禍の影響、円安の影響は、通訳・翻訳ともに、前回20年の調査と比べて明らかに改善しています。それは間違いないところで、おそらくみなさまも実感していただけるのではないかと思っております。特に、通訳の回復傾向が非常に強く出ています。

逆に、コロナ禍の影響が翻訳事業以上に通訳事業のほうに強く出ていたと言えると思います。それは期間も規模もそうですね。20年調査のときは翻訳も痛かったんですけど、それ以上に通訳は、ようやく今回の調査で改善が見られてきたところですので、翻訳以上に通訳のほうがきつかったのかなというところもあるかと思います。

円安の影響は、実は翻訳のほうでもう少し出るかと思っていました。みなさま外国企業のお客さまもいらっしゃるかと思いますので、そういったところでもうちょっと強い影響が出るのかと思っていましたが、思ったほどは出なかったと考えています。

次のMTの活用状況です。これは進んでいる、活用していますという会社が増えているのは間違いないと思いますが、それが統計的有意さをもって確認できることではないという結果になっています。

どういう会社が活用しているかというと、大手企業ほどMT活用を推進する傾向が強いというのは2回の調査で連続して同じ結果が出ていますので、おそらく間違いないでしょう。分野別では工業技術分野を取り扱っている会社はMTを活用する傾向が強いことも前回と同じ結果となっています。ただなぜそうなるか理由はわかりません。

最後に、インボイス制度への対応については、くどいほど申し上げますけれども、制度開始1年前の調査ですので今とはだいぶ傾向が違うでしょうという前提で、理解度が高くなると適格事業者への転換を要請する傾向が強くなってくることは、ひとつの傾向としてあるかと思っています。

一方、適格事業者と免税事業者に対する単価変更の差が見られない、全く同じ分布をしているという、非常に不自然な分布をしているところとか、もう取引停止しますといった回答が固まって出てしまうあたりを考えると、やはりまだまだインボイス制度について十分に消化しきれていなかった時期の調査結果かというふうにも思っております。

私からのご報告は以上です。どうもありがとうございました。

(2023年6月6日 2023年JTF定時社員総会基調講演より編集)

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1 景況感の変化とコロナ禍の影響、円安の影響
2 機械翻訳(MT)の活用状況
3 「インボイス制度」への対応

○執筆者プロフィール

二宮俊一郎(にのみや しゅんいちろう)

JTF理事・業界調査委員長、株式会社翻訳センター代表取締役社長
1997年4月 (株)翻訳センター(東京)入社
2004年6月 (株)翻訳センター取締役
2017年11月 (株)メディア総合研究所代表取締役社長(現任)
2018年6月 株)翻訳センター代表取締役社長(現任)
2018年7月 HC Language Solutions, Inc. 代表取締役社長(現任)

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