日本翻訳連盟(JTF)

ISO 規格の最新動向

ISO TC37/SC5ブリュッセル総会参加報告

  1. ISO への関わり、および翻訳部会(WG1)報告
  2. 翻訳部会(WG1)の報告
  3. 通訳部会(WG2)、通訳機器部会(WG3)の報告

1.ISO への関わり、および翻訳部会(WG1)報告

報告者:JTF ISO検討委員会議長 森口 功造(株式会社川村インターナショナル 代表取締役)

はじめに

日本翻訳連盟(JTF)では、組織委員会の下部組織として「JTF内ISO検討委員会」を設け、ISO(国際標準化機構)の専門委員会(Technical Committee: TC)のうち、言語と用語(Language and terminology)に関する専門委員会であるTC 37の標準化活動に2012年から携わっています。

TC37に翻訳と通訳(Translation, interpreting and related technology)を扱う分科委員会であるSC5が設置されてから11年目を迎えました。日本翻訳連盟は、規格に関する議論において業界団体としての意見を発信するため、毎年開催される国際会議(総会)にSC5の設立時から継続して参加しています。新型コロナウイルス感染症の流行により、残念ながら対面での総会は過去3年間すべて中止され、代わりに各部会においてオンライン形式の議論だけが継続されてきました。

4年ぶりに再開された国際総会は、EU本部があるベルギーのブリュッセルで6月11日から16日にかけて開催されました。実施形態も会場参加とオンライン参加のハイブリッド形式で実施されました。

ISO 11669、ISO18587、ISO 21720、ISO13611、ISO18841、ISO20109、ISO17651-1、ISO17651-2、ISO17651-3の規格が議論されましたが、今回はその中でもJTF会員の皆様方に影響する可能性がある規格について報告します。

ISO/TC 37の概要

ISO/TC 37はISOのなかで「言語及び専門用語」(Language and terminology)を対象とする専門委員会であり、その下に次の5つの分科委員会(SC)が設置されています。

ISO/TC 37/SC 1(一般原則と手法:Principles and methods)

ISO/TC 37/SC 2(用語ワークフローと言語コード:Terminology workflow and language coding)

ISO/TC 37/SC 3(用語資源の管理:Management of terminology resources)

ISO/TC 37/SC 4(言語資源管理:Language resource management)

ISO/TC 37/SC 5(翻訳、通訳及び関連技術:Translation, interpreting and related technology)

このうち通訳翻訳業界が直接関係するのはISO/TC 37/SC 5になりますが、さらにその中に翻訳(WG1)、通訳(WG2)、通訳機器(WG3)を専門とするワーキンググループなどが設けられています。

過去のイベント
ISO TC 37/SC 5 が管理する国際規格およびプロジェクト(2023.6.30 現在)

この表は 2023 年 6 月に ISO のウェブサイトで公開されていた情報をもとに JTF 内 ISO 検討委員会の責任において作成したものです。審議の進行にともない最新の状況が表の記載内容から変更される可能性がある点にご注意ください。

最新の情報は次の URL から確認できます。https://www.iso.org/committee/654486.html

(★)が付いたものは JTF 内 ISO 検討委員会で検討対象にしている規格です。

参考:プロジェクトの各段階と関連文書

出典:ISO/IEC 専門業務用指針,第 1 部 統合版 ISO 補足指針- ISO 専用手順 第 10 版 2019を元に作成


翻訳部会(WG1)の議論

4年ぶりに対面とオンラインのハイブリッド開催となった今回、翻訳部会では翻訳品質評価に関する標準規格であるISO 5060がFDISのステージに移行するための投票を終えたばかりでした。投票後のコメント収集期間には、その規格について議論をすることができないため、ブリュッセルの総会ではISO 5060が議論の対象からは外れていましたが、FDISのステージに上がった規格案は大きな修正がなされることがほとんどないため、ISO 5060として発行される日は近いと思います。

その代わりに、WG1ではインハウス翻訳者に関するISO17100の新規提案と、ISO11669およびISO18587の定期見直しが議論の対象となりました。ISO11669は、2012年に発行された技術仕様書(Technical Specification)ですが、こちらは定期見直しで改定の議論が行われています。ただし、ISO11669がガイドライン文書としての位置づけであることを鑑みて、JTFでは検討対象の国際標準規格と位置付けていないため、ここでは割愛させていただきます。

本稿では、機械翻訳(MT)出力を人間が修正する「ポストエディット(PE)」に関する国際標準規格ISO 18587:2017の改定について情報を共有したいと思います。

改定の背景

ISO 18587は、統計的機械翻訳から主流だった時代に議論を重ねて策定された国際標準規格です。発行段階の2017年になると、ニューラル機械翻訳が市場に出始め、MTの出力結果を人が修正するポストエディットという作業方法が盛んに取り入れられ始めます。日本でもポストエディットが導入される機会が増えましたが、ターゲット品質の定義や、作業方法の透明性向上、そしてプロセスの明確化を目的として、ISO 18587 の自己適合宣言をする企業が増えてきました。

こうしたことからも、年々重要性が増してきている本規格ですが、2022年に発行後5年の定期見直しの投票が実施され、各国のエキスパートの投票の結果、規格の改定をすることが決定しました。発行当初にニューラル機械翻訳を想定して議論をしていなかったため、作業者が焦点を当てるべきポイントや注意点などについて、規格の文言を修正する必要があることについては、各国エキスパートが共通の認識を持っていました。

ブリュッセルの会合では、各国の代表者がISO18587に対する期待と課題、今後の規格改定プロジェクトにおける議論の方向性について意見を述べました。

ISO 18587 の見直しの方向性と今後の見通し

今後の議論の中で明確にすべきポイントとして挙げられたのは、翻訳メモリ(TM)やデータベースを併用したポストエディットプロセスの明確化です。ISO 17100でも翻訳メモリについてはAppendixで明記されているものの、具体的なプロセスとして考慮されているわけではありません。

一方、費用逓減と納期短縮を目的とするポストエディットのプロセスにおいては、データベースや翻訳メモリなどの過去の翻訳資産を併用して、翻訳対象のボリュームおよび作業負荷を低減することは理にかなっています。現行の18587では、対象とするリソースの範囲が不明瞭なため、まずは規格の対象範囲(Scope)の改定から着手することになりそうです。

今後も、JTF内ISO検討委員会の委員の皆様と情報を共有、協力しながら、日本の翻訳業界にとって有益な国際標準規格の策定に努めてまいります。

○報告者プロフィール

森口 功造

株式会社川村インターナショナル 代表取締役
日本翻訳連盟専務理事。品質管理担当として(株)川村インターナショナルに入社後、翻訳、プロジェクトマネジメントなどの制作全般業務を経験。2020年6月から同社代表取締役社長に就任。ISOの規格策定にはJTFのISO検討委員会発足時から参加し、検討会の議長を務める。TC37 SC5 国内委員。

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