日本翻訳連盟(JTF)

ISO規格の最新動向

ISO TC37/SC5ブリュッセル総会参加報告

  1. ISO への関わり、および翻訳部会(WG1)報告
  2. 翻訳部会(WG1)の報告
  3. 通訳部会(WG2)、通訳機器部会(WG3)の報告

3.通訳部会(WG2)、通訳機器部会(WG3)の報告

報告者:JTF ISO検討委員会委員 村下 義男(株式会社コングレ・グローバルコミュニケーションズ 代表取締役社長)

通訳部会(WG2)及び通訳機材部会(WG3)の議論内容

2019年のオタワ(カナダ)総会以来、4年ぶりの会場参加型でのブリュッセル(ベルギー)総会に参加しました。

この4年間で、ISO23155:2022(会議通訳)やISO24019 :2022(同時通訳遠隔プラットフォーム)が順次、国際規格発行となりました。よって、JTF内ISO検討委員会として,取り組むべき大きな通訳関連の規格は、2022年の段階でほぼ終了しています。

一方で、WG2、WG3とも、それぞれ5年見直しの規格が数多く発生しています。

特に、JTF 内 ISO 検討委員会として、取り組むべき通訳規格について、以下のとおり、報告させていただきます。

WG2(通訳)では、

① ISO13611:2014(コミュニティ通訳)については、現在最終段階のFDISのプロセスへ移行中です。

② ISO18841:2018(通訳サービスの一般的要求・推奨事項)の5年見直しについては、今回の総会で、見直しのプロセスへと進むことになりました。

次回の総会までに、リモート会議を通じて、つめていくことになります。

WG3(通訳サービスに関連する設備・機材)でも、数多くのISO規格の5年見直しがでてきています。

以下の規格は、WG3 会議の中で、投票案件全てが、参加者の賛成多数で承認されました。

① ISO20109 CD(同時通訳機材)→DISプロセスへ進む(ISO20108:2017の 後継規格)

② ISO17651−1 DIS(固定通訳ブース)→FDISのプロセスへ進みます。

③ ISO17651−2  DIS (モバイル通訳ブース)→FDISのプロセスへ進みます。

④ ISO17651-3 CD(通訳HUB)→通訳HUBの定義は、ここ3年でコロナ禍となり、リモートでの通訳をする場面が増えているため、その定義の変更が迫られています。会議場での通訳ブースと自宅等の別場所からのリモート参加が増えており、その場合の通訳HUBの定義が、従来のコロナ禍前と大きく変更することになりました。よって、修正部分が数多く噴出したため、再度2nd CDのプロセスへ進むことになりました。

⑤ ISO20108:2017 (同時通訳においての音と映像の品質)の5年見直しについては→上記①ISO20109(同時通訳機材)やISO22259(会議システム)の内容とかなりの部分で重複しているので“withdraw”することに、賛成多数で合意、承認されました。

WG3(通訳サービスに関連する設備・機材)の参加メンバーの特徴

この部会の特徴は、通訳サービスに関連する設備、機材を扱っているため、参加メンバーが、WG2(通訳)を構成している通訳者のみならず、同時通訳機材を扱うメーカー(ヨーロッパを中心に世界で4,5社程度)の開発技術者や同時通訳ブースの設計・製造企業(全世界で大手と言われている企業は数社程度)の担当者、その設備や機材を実際に、国際会議場やホテル等の施設でオペレーションするエンジニアの方々や同時通訳サービスを提供する企業のメンバー(私はこの立場で参加しています)の方々から構成されています。よって、実際にWG3で議論している内容は、技術者でなければ、全く理解できない専門的な内容が数多く出ています。

例えば、よく出てくる専門用語に、「Latency」という単語。コンピュター用語で、待ち時間、呼び出し時間という意味で使われていますが、実際の規格の中では、「話者の音声と通訳者の耳との間の総合的なLatencyは、500msを超えないものとする…」という形で使われています。ちなみにmsとは、millisecondの略(1000分の1秒を指す)。よって、500/1000msですので、0.5秒を意味します。よって、上記の文章の意味は、「0.5秒以内の範囲に収めること、それ以上、遅い規格はダメですよ」という意味です。

技術的には日進月歩で進化していますので、5年前は、許容されていたLatency(遅延)が、現在では、もっと早くしないと、話者→通訳者→聴衆までの到達時間が遅れていき、聴衆が違和感を持つことにつながります。そのためにISO規格では、5年見直しという仕組みを設けています。今、一例を挙げて説明しましたが、技術者でない通訳者や運営会社の社員も議論に参加しますので、時にはあまりにも専門的過ぎて、議論についていけない場面もあります。

なお、この会議をまとめていく進行役をISO会議では、コンビーナといわれるリーダーが進行します。WG3のコンビーナは、ベテランの会議通訳者が務めています。各専門家や通訳者の意見を十分聞きながら、1つの規格にまとめ上げていくという作業は、本当に労力と忍耐のかかる仕事であると常々敬服しているところです。

WG3(通訳機材関係)の会議場風景1
WG3(通訳機材関係)の会議場風景2
ブリッセルのEU本部で開催されるISO総会について

今回は、ブリュッセルにあるヨーロッパ議会(EP)の建物の中で、連日議論をしていたのですが、200名程度の収容できる会議施設で、音響、映像設備は充実していました。

ここで、EU(欧州連合)について、簡単に説明しておきますと、EU(欧州連合)の現在の加盟国は27ケ国(公用語は24言語)となっています。

EU大統領は、ベルギー出身のシャルル・ミシャエル氏(男性)。欧州委員会委員長に、ウルズラ・フォン・ライエン氏(ドイツ出身の女性政治家)が就任されています。(今年6月開催の広島サミットの折にも、この二人がEU代表として参加されました。)

私が、JTF通訳部会の委員として、一番注目したのは、EUの建物の中には、どの会議場にも、多くの固定式の通訳ブースが会議場の周囲の壁面に設置されていました。(200人収容の会議場でも、10個以上の固定ブースが設置されていました。)

ベルギーの技術者で、このEP(ヨーロッパ議会)の職員でもある方と話をして、わかったことは、どの会議場でも議論をする際には、その参加メンバーの母国語の会議通訳者を用意する必要があるとのことです。よって、年に数回開催されるEU総会で、全ての加盟国が参加する会議では、24の公用語の通訳者を用意する必要があるとのことでした。とはいえ、日常的に使用するのは、英語、フランス語が多いとのことです。そのベルギーの職員の方も、日常的には、フランス語を使っているとのことでした。

このブリュッセルの市内には、至る所にEU関連の施設が多数あります。よって、EU所属の会議通訳者の数は、相当数にのぼりますし、そのオペレーションをするための職員もいます。また会議通訳の場合には、そのオペレーションのための音響機材スタッフや映像用スタッフも用意する必要があります。(実際の雇用形態は、不明ですが……)

日本では、会議通訳のいる場面というのは、特殊で、非日常のシーンですが、ブリュッセルでは、ごく日常的なシーンであることを実感させられました。

プレナリー会議の際に使用された会議場。
固定式の通訳ブースが設置されいる

なお、上記以外の動きとして、WG3で、長年活躍されたコンビーナのMrs.Marguerite Lelyが今回の会議を最後に退任されることに伴い、後任のコンビーナ候補2名がWG3のリアルとリモートでの参加者を前に、プレゼンを実施しました。近日中に投票の案内がされるとのことでした。8月には新しいコンビーナが決定する予定です。(なお、その後の追加情報として2023-07-27付けISO文書では、新しいWG3のコンビーナに、Mr.Stefano Marroneが選出されました。)

今後とも、JTF内ISO検討委員会の委員の皆様と情報を共有、協力しながら、日本の通訳業界にとって有益な国際標準規格の策定に努めてまいります。

○報告者プロフィール

村下 義男

株式会社コングレ・グローバルコミュニケーションズ 代表取締役社長
日本翻訳連盟理事。2010年より㈱コングレの通訳部・翻訳部門責任者。その後2013年より、(株)コングレ・グ ローバルコミュニケーションズに出向。2017年7月より現職。2015年よりJTFのISO検討委員会・通訳部会委員として参加。 TC 37 SC 5 国内委員

   3

共有