日本翻訳連盟(JTF)

私の一冊『ひとりの双子(The Vanishing Half)』

第27回:英日・日英翻訳者 下村万実さん

『ひとりの双子(The Vanishing Half)』ブリット・ベネット著、友廣純訳、早川書房、2022年

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アメリカの黒人女性作家ブリット・ベネット著『ひとりの双子(The Vanishing Half)』(友廣純訳)を紹介します。題名と設定に興味を引かれ、手に取った小説です。

アメリカ南部にある肌の色の薄い黒人だけが代々暮らす架空の小さな町マラード。この町で生まれ育った双子の姉妹デジレーとステラは、16歳のある日、故郷を飛びだし、やがて別々の人生を歩みだす。一人は黒人として、もう一人は白人になりすまして……。

1950~80年代にわたり二人がたどるそれぞれの人生は、どちらも喪失と痛みに満ちているものの、様々な点で大きく異なる。そして、双子の娘たちの人生も。「黒人」とは「白人」とは「人種」とは何か。「何者であるべきか」を本人の意思とは関係なく規定する社会の中で、それでも自らの道を歩もうとする登場人物たち。その懸命な姿に胸を打たれる。「レイシズム」「カラリズム(colorism)」「男女関係」「母娘関係」「性的マイノリティ」等、様々な要素が入った読み応えのある一冊だ。

◎執筆者プロフィール

下村万実(しもむら まみ)

特許翻訳者(英日・日英)。2019年から出版翻訳の勉強を始める。『通訳翻訳ジャーナル2022年夏号』の「誌上翻訳コンテスト児童書編」で最優秀賞を受賞。
現在、児童書・YAの出版翻訳者(英日)を志しており、同分野の翻訳・リーディングの仕事を募集中。

★次回は、スウェーデン語&ノルウェー語-日本語翻訳者の中村冬美さんに「私の一冊」を紹介していただきます。

←私の一冊『誤訳をしないための翻訳英和辞典+22のテクニック』改訂増補版

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