日本翻訳連盟(JTF)

私の一冊『セミコロン かくも控えめであまりにもやっかいな句読点』

第29回:英日・日英翻訳者 尾張惠子さん

『セミコロン かくも控えめであまりにもやっかいな句読点』セシリア・ワトソン著、萩澤大輝・倉林秀男訳、左右社、2023年

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わたしが翻訳の仕事を始めたのは法律事務所、そこではたしかに「;」というのはプルーフリーディングで最も注意を払うべき記号のひとつではありましたが、その意味は数式の記号と同様に明確に規定されているように認識していました。しかし文芸翻訳を始めてから、この小さな記号の曖昧さに頭を悩ませることに。タイトルで飛びついたのがこの本です。

読んで悩みは解決したか。答えはノー、でも抜群に面白い。「;」の解釈を巡って起きた社会的な大騒動、文豪と編集者の激闘など、翻訳に携わる者でなくても大いに楽しめるエピソードが満載。笑ったりほろりとさせられたりしつつ、最後には人はいかに言葉と向き合い生きていくべきか深く考えさせられました。また原文の遊び心をできる限り忠実に生かした翻訳の巧みさも本書の大きな魅力であり、翻訳者としては大いに参考にしたくなる一冊です。

◎執筆者プロフィール

尾張惠子

英日/日英実務翻訳、英日文芸翻訳、文筆業。現在共訳にてメーヴ・ブレナン短篇集を準備中。

★次回は英日翻訳者のかとうちあきさんに「私の一冊」をご紹介いただきます。

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