日本翻訳連盟(JTF)

私の一冊『世界文学としての方丈記』

第36回:研究者(日欧交流史) 小川 仁さん

『世界文学としての方丈記』(日文研叢書60)プラダン・ゴウランガ・チャラン著、法藏館、2022年

日本人の無常観を説いた名著『方丈記』が、いかにして世界文学へと変貌を遂げていったのか。これを翻訳や翻案という文脈から読み解いたものが、『世界文学としての方丈記』である。当該著作では、夏目漱石による英訳『方丈記』の分析を皮切りに、欧米における『方丈記』の受容が多角的に論じられている。日本語を解さないイギリスのモダニスト詩人バジル・バンティングは、イタリア人日本研究者マルチェッロ・ムッチョリのイタリア語訳『方丈記』とそれに付された注釈を参照して、"Chomei At Toyama"なる詩を書き上げたという。本来の作者の手を離れ、重訳により異文化のイメージが増幅されていく展開は、私が日々研究する日欧交流史においても、往々にしてあり得るものであり、ゴウランガ氏の研究から学ぶべき点は非常に多い。かつての職場の同僚であったゴウランガ氏とは、仕事の傍らで、時には酒を酌み交わしながら様々な議論をしたものである。彼の干上がることのない好奇心の泉から溢れ出たものが、この『世界文学としての方丈記』と言ってもいいであろう。

◎執筆者プロフィール

小川 仁(おがわ ひとし)

研究者(日欧交流史)。博士(人間・環境学)。主な著書に「驚異へ捧げる賛辞 : ナポリ随一の文筆家ロレンツォ・クラッソに見る日本像」(単著、『日本研究 第65集』所収、国際日本文化研究センター、2022年)、『シピオーネ・アマーティ研究:慶長遣欧使節とバロック期西欧の日本像』(単著、臨川書店、2019年)、『国際日本文化研究センター所蔵 日本関係欧文図書目録―1900年以前刊行分―第4巻 (1853年以前)』(共著、臨川書店、2018年)。

★次回は龍谷大学 世界仏教文化研究センター 博士研究員(専門は日本文学、比較文学)のプラダン・ゴウランガ・チャランさんに「私の1冊」を紹介していただきます。

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