日本翻訳連盟(JTF)

訳文チェックツール&ローカリゼーション実習ソフトウェア

2014年度第1回JTF翻訳支援ツール説明会報告
訳文チェックツール&ローカリゼーション実習ソフトウェア

新田 順也 西野 竜太郎

 



2014年度第1回JTF翻訳支援ツール説明会
日時●2014年9月2日(火) 14:00 ~ 16:30
開催場所●GMOスピード翻訳(株) 大1会議室
テーマ●訳文チェックツール&ローカリゼーション実習ソフトウェア
講 師●新田 順也氏(エヌ・アイ・ティー株式会社 代表取締役)/西野 竜太郎氏(東京工業大学 博士課程在籍/JTF標準スタイルガイド検討委員)
報告者●小林 澄子(株式会社 知財コーポレーション)

 


 
<第一部:新田氏> 「訳文チェックツール」

ユーザーの要望を元に5年ほど前に開発を開始した、翻訳チェックツールの『色deチェック』。
2011年10月から3年連続でMicrosoft MVPをWord部門で受賞してきた講師が、どのようなニーズに対して、どのような形で開発してきたのか、を説明していく。

はじめに

一般的に、ツールというと思い浮かべるのが「あのツール使いづらい」等のコメントである。
実際ツールの評価をするとき、どこで、誰が、何を、どんなふうに、使っているかで、たとえ同じツールであってもよいか悪いか(使えるか、使えないか)の評価は分かれる。その差はどこからくるのだろう?

翻訳分野別のチェックの項目の違い? チェックツールのニーズの違い?

さらに翻訳ツールの場合、ユーザー(経営者? 社員? フリーランス翻訳者?)や、分野(特許? 法務? 金融・経済? IT?)などによっても評価は変わる。それぞれでチェックの視点や項目が変わるためである。
例えば、経験豊富なユーザーは、経験に基づく独自の視点でチェックをすることが多い。このようなユーザーは、自身のノウハウを反映できるツールをよいツールと判断し、カスタマイズのできないツールを使い勝手が悪いツールと判断するかもしれない。また、新たなツールの利用を上司から強要された社員は、カスタマイズ可能であればあるほど、面倒なツールと評価するかもしれない。
つまり評価は条件や状況によることが多い、ことがわかる。

ではツールとの健全な付き合い方とは?

そのツールでは何ができるのか、何ができないのか、を知ることが第一であり、一つのツールだけでチェックを終わらせようと考えないこと、ツールを組合せて使っていくこと、が必要だと考える。
そして、チェックする項目が決まっていれば、設定を変えたり、カスタマイズしたりしてそれに特化して使用することが大事である。
万能ツールは、一般的に際立ったうれしさが少ないことが多く、期待はずれになることがある。チェックの内容や目的を明確にすれば、それにピンポイントで効果的に対応する専用ツールを選ぶことできる。

 『色deチェック』の特徴

できることをあげていくと、
○Wordで動くチェックソフトのため、Wordの検索・置換機能やマーキング機能を使える、
○色で確認できる(原文と訳文の対応関係を瞬時に可視化する)、
○様々な表記(西暦・和暦、スペルアウトされた数詞、漢数字など)の数字のチェックができる、
○分野に合わせてチェック対象となる英数字記号の選択ができる、
○見出しスタイル、段落、セクションに基づき原文と訳文の対を自動判定して整合できる、
○自分で所有する用語集によるチェックも可能
 
また、訳抜けや誤訳のチェック機能の他に、原文と訳文の整合作業におけるずれの修正を効率的に行う機能が充実している。すべてを自動で実施するのではなく、ユーザーが適切な役割を担うことで、正確な整合を短時間で行うことができる。
対訳表の活用も重要である。例えば、対訳表を翻訳メモリのデータに利用できる。また、特許分野においては、中間処理の際に対訳表を活用する事例もある。

翻訳者兼ソフト開発者として

質問などを介して届くユーザーの声はうれしい。ユーザーのチェックの工夫を垣間見ることができるからだ。そして、ユーザーの工夫を色deチェックに蓄積し、色deチェックのチェック精度を向上させていける。
経験豊富な方々のスキルをツールを通じて誰でも使えるようにすることが、自分の役割だと感じている。

まとめ

目的を明確にして、どれだけ時間をかけられるか?を考え、
ツールの癖を知った上で、その目的に合ったツールを使い必要なカスタマイズをする。
1つの万能ツールを求めず、複数のツールを柔軟に組み合わせる。
疑問があれば、開発者に聞いてみることも大切である。

 

<第二部:西野氏> 「ローカリゼーション実習ソフトウェアとL10N/I18Nの基本」

ソフト ウェアやウェブサイトなどをローカリゼーション(L10N)するにあたっては、翻訳技能に加え「テクスト表示の仕組み」に関する知識が必要となってくる。 IT分野の翻訳者でありソフトウェア開発者、そしてJTF標準スタイルガイド検討委員会委員の講師がローカリゼーション(L10N)やインターナショナリ ゼーション(I18N)の基礎知識からその生かし方までを合わせて説明していく。

ローカリゼーション=L10Nとは?

L10Nとは、Localizationの中間10文字を省略したものであり、業界団体(GALA)による定義の要点をまとめると「翻訳に加え、対象ロケールの文化や慣習に製品をあわせること」だと言える。
つまり、翻訳+文化的適合、をいう。
例 えば、アイコンに「赤い」郵便ポストを使う場合、日本では当然のものとして受け入れられるが、世界では必ずしもポストの色が赤ではないことがある。つまり ぱっと見て郵便ポスト­=赤、であるということにはならない。こういった地域で異なる要素が、住所、通貨の書式、計測単位・・・と世界中には数多くある。
 
さて、翻訳学では、L10Nは「デジタル情報」が対象だと明示されることがある。中にはデジタル情報がかかわらないL10Nもあるが、今回の講義ではデジタル情報を扱うことにする。
分類すると、下記の図のようになる。(ただし、ウェブ・アプリケーション(Gmailなど)のように完全に区分わけできないものもあり、あいまいでもある。)

 


ここでのソフトウェアL10Nの対象としては、ユーザーインターフェイス(UI)があり、ボタン、メニュー項目やメッセージがそれにあたる。

インターナショナリゼーション=I18Nとは?

I18N とはInternationalizationの中間18文字を省略したもので、「あとでさまざまな言語や文化に対応(L10N)できるよう、開発時に一 般化しておくこと」である。ここでいう一般化とは、特定の言語や文化に依存しないようにすることである。また作業は開発者/プログラマーが担当する。

ローカリゼーション(L10N)とインターナショナリゼーション(I18N)の関係

一般的に行われる流れとしては、

  1. I18N段階で開発者/プログラマーがソフトウェアを一般化

  2. L10N段階で翻訳者が各国語に翻訳


これによりテクスト表示の仕組み(I18N)の理解も深まっていくであろう。
を使うと、実際にソフトウェア翻訳をしながら学べ、UI翻訳およびヘルプ翻訳の実習もできる。
 (無償で入手可能)http://research.nishinos.com/training-app

Expense Recorder実習ソフトウェア

L10Nそこで、I18N では、文字列の外部化、プレースホルダーの使用、ロケールごとに異なる要素(日付形式、桁区切りなど)への対応といった作業をプログラマーが行う。翻訳担 当者はI18Nすべてを知る必要はないが、どういう仕組みでユーザーに翻訳テクストが表示されるのか、という理解は必要であろう。要するに、ユーザーに表 示される翻訳テクストはL10NだけではなくI18Nも関係している。そのためプロセス全体(少なくとも前工程であるI18N)を知っておくと、翻訳品質 の向上につながるはずだ。
 
翻訳者がI18Nを知ることは、前工程を知ることになるが、実際は前工程であるにもかかわらず別組織で行われるので、知る機会が少ない。
  (*ちなみに、1,2両者を合わせてG11N(Globalization)とも呼ぶ。)
ただし、L10Nで問題を見つけてI18Nに戻すこともある(例:前述の、郵便ポストの色)

 

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