2秒×1000回=30分のなぞ ―翻訳業務でのWord マクロ活用とWord のチューニング方法―
2013年度第4回JTF関西セミナー報告
2秒×1000回=30分のなぞ ―翻訳業務でのWord マクロ活用とWord のチューニング方法―
新田 順也
エヌ・アイ・ティー(株)代表取締役/ブログ「みんなのワードマクロ」管理人
2013年度第4回JTF関西セミナー
2014年1月24日(金)14:00~17:00
開催場所●大阪大学中之島センター
テーマ●「2秒×1000回=30分のなぞ―翻訳業務でのWord マクロ活用とWord のチューニング方法―」
講師●新田 順也 エヌ・アイ・ティー(株)代表取締役/ブログ「みんなのワードマクロ」管理人
報告者●上畠 彩(株)トランスワード
「翻訳業務でのWord マクロ活用とWord のチューニング方法」をテーマに、2013年度第4回目のJTF関西セミナーが開催された。講師は翻訳者兼ソフトウェア開発者としてご活躍されている、エヌ・アイ・ティー株式会社代表の新田順也氏。事前アンケートでは、Wordマクロを使用したことがないとの回答が6割以上だったとのこと。100名の定員が満席となったことから、このテーマに関する関心の高さがうかがえる。
セミナーは3部構成で、第1部はマクロを使ったおよびマクロを使うコツ、第2部ではセミナー後にダウンロード形式で配布されるマクロのセットアップおよび使用方法の説明、第3部では配布されるマクロ以外の翻訳支援のデモンストレーションである。各々が実際に翻訳作業をするうえで必要となるツールは、様々な条件によって大きく変わる。Wordマクロは、様々な翻訳支援ツールのなかから自分に合ったツールを選ぶ際の選択肢の1つにすぎないという前提でセミナーを進める旨が明示される。「翻訳にワードマクロを使っている自分を妄想してワクワクする」をゴールに掲げ、第1部に入る。
第1部 Wordマクロの紹介
初めにWordマクロのイメージを掴むためのデモとして、配布されるマクロ集に収録されている一部を実行。「書式なしでテキストとして貼り付け」、「上下・左右の余白や1ページあたりの行数の調整」、「選択した用語を指定の辞書サイトで検索する」などのマクロを次々と、ツールバーのボタンもしくはショートカットキーを1度押すだけで実行する。
Wordマクロとは、自動で翻訳をするツールではない。あくまでも翻訳支援の道具であり、Wordを翻訳マシンにチューニングするためのツールである。通常の操作では3ないし4クリック程度必要なものを効率的に行えるようにするためのものである。例としては、ブラウザに表示された情報をコピーしてWordに貼り付けようとした場合に、書式情報なしで貼り付けをしたいため、「形式を選択して貼り付け」をする必要がある。Word 2007ではその操作をするのに3クリック要する。この程度の操作に要する時間が2秒程度、一般の翻訳作業においてこの程度の操作を1分間に2回しているとした場合、1時間では120回、1日ではおよそ1000回程度、時間にして30分ぐらいを費やしている可能性がある。テーマに掲げた「2秒×1000回=30分のなぞ」とはこういう意味である。日々のこうした小さな作業の積み重ねは短縮できる可能性があるのではないか。実際に短縮ができれば、その時間をより付加価値の高い作業に費やすことができるようになる。配布されるマクロは、翻訳者からの要望で作られたものも多い。マクロを実行するということは他の翻訳者が行った作業を再現するということであり、その点ではマクロは「知恵の塊」ともいえる。
第2部 配布されるマクロのセットアップおよび使用方法の説明
Wordのテンプレートファイルが配布されるので、Wordを閉じた状態でそれを特定のフォルダ(STARTUPフォルダ)に保存するだけで、インストールが完了。自分が必要とするマクロはツールバーのボタンにしてしまうと実行が容易になるが、その為のオリジナルのユーザーインターフェースも同梱されている。一旦設定してしまえば、それ以降は設定された状態でWordが起動する。
また、マクロはボタンにするだけでなく、ショートカットキーを割り当てることも可能。Wordにはもともとショートカットキーを作る機能がついており、MS Officeのアプリケーションの中でもとりわけその機能が強力である。Ctrlキーとの組み合わせ(Ctrl+vなど)は、既に使用されているものや他のアプリケーションと共通のものも少なくないので、Altキーと組み合わせることが推奨される。組み合わせるキーは、自分が覚えやすく、押しやすいものがよい。例えば、Alt+tで「テキストとして貼り付け」、Alt+gで「選択した単語のGoogle検索」のマクロを実行するように割り当てれば、非常に覚えやすい。
マクロをツールバーのボタンにした場合に、実行する際にマウスに持ち替える必要がある。したがって、余り頻繁には使わないもの(1日、1案件、1週間につき1回など)はツールバーのボタンにして、頻繁に使用するものはキーボードのショートカットとするのがよい。ショートカットキーの操作は慣れれば手癖がくようになり、毎日使うショートカットを徐々に増やしていくと、それだけで仕事のやり方が変わる。いずれは、マクロを使い始める前とは発想そのものも変わってくるようになる。そうなると、「もしかしたらこれもマクロでできるのでは?」と気づくようになり、その時は改めて配布されたマクロ集にそのようなマクロが入っていないか確認するとよい。
前述の「チューニング」とは、このような機能を用いてWordで自分の作業環境を作ることをいう。
第3部 配布されるマクロ以外の翻訳支援ツールのデモンストレーション
紹介されたのは無料ツール「右クリックでGoogle!」および有料ツール「色deチェック」で、いずれもマクロというよりはソフトウェアと呼ぶべきもの。「右クリックでGoogle!」は、ダブルクォーテーションを検索文字列の前後に足してフレーズ検索をする、サイトを指定して検索する、同じ単語を様々なサイトで串刺し検索するなど、Wordから様々な特殊検索を容易に実行できるツール。「色deチェック」は、対訳表を自動で生成し、その中のキーワードをハイライトすることで対訳表の整合作業を容易し、また原文にあるのに訳文にない数字などをハイライトすることで視覚的なチェックを可能にするツール。デモンストレーションを見ることで、これまで想像していなかった形で仕事のやり方が変えられるかもしれない。そのきっかけづくりとして、2つの支援ツールが紹介された。
感想
日頃よりマクロやショートカットは多用しているので、本題の内容の多くは既知のものであった。それでも、ショートカットを極めた講師の話の端々には自分の知らないことが数多くあり、それだけでも有意義だった。また配布されたマクロや当日のデモンストレーションからは非常に強い刺激を受け、既に仕事の進め方の一部を変えることにもつながっているので、その点でも大変良い契機になった。おかげさまでワクワクした日々を過ごせている。