[イベント報告]第6回翻訳・通訳業界調査報告
2021年度JTF定時社員総会基調講演報告
- テーマ:第6回翻訳・通訳業界調査報告
- 日時:2021年6月9日(水)14:00~16:00
- 開催:Zoomウェビナー
- 報告者:伊藤 祥(翻訳者/ライター)
登壇者
齊藤 貴昭(サイトウ タカアキ)
翻訳者、JTF理事
社内通訳翻訳を5年経験後、翻訳会社にて翻訳事業運営をする傍ら、翻訳コーディネータ、翻訳チェッカー、翻訳者を10年経験。現在、副業で、翻訳者として稼働している。
二宮 俊一郎(ニノミヤ シュンイチロウ)
株式会社翻訳センター 代表取締役社長、JTF理事
1997年4月 (株)翻訳センター(東京)入社
2004年6月 (株)翻訳センター取締役
2012年9月 (株)アイ・エス・エス代表取締役社長(現任)
2017年11月 (株)メディア総合研究所代表取締役社長(現任)
2018年6月 (株)翻訳センター代表取締役社長(現任)
2018年7月 HC Language Solutions, Inc. 代表取締役社長(現任)
昨年実施された第6回翻訳・通訳業界調査の結果をまとめた「2020年度翻訳白書」が2021年4月に発行された。調査には、翻訳・通訳企業228社、翻訳者・通訳者752名の回答があった。回答法人数は前回2017年比18%減であったが、有効回答率は前回比28.7%と過去最高を記録、個人の回答数は前回比35%増となった。
新調査項目としては、①コロナ禍の影響、②MT(機械翻訳)の活用が追加されている。
本報告会は、前半は法人回答のまとめ、後半は個人回答のまとめの2部構成で発表され、300名に上る方がオンライン参加した。
1. 翻訳・通訳企業調査の部:二宮俊一郎
翻訳・通訳企業の概要
今回調査の回答企業数は前回比約50社減となったが、回答企業の年間総売上高構成比、ならびに翻訳事業売上高構成比は前回同様で、事業規模についても前回から大きな変動はなかった。翻訳事業・通訳事業の景況感はともに、売上が減ったと回答した企業が大幅に増加したが、これは、事前にコロナの影響でこのような回答になるだろうと予想されていたため、検証の質問を用意し分析した。以下に詳細を述べる。
コロナ禍の影響
翻訳事業の売上高は6割の企業が減収だが3割の企業は影響が軽微であった。その違いを深掘りしていきたい。事業規模で比較したところ、コロナ禍は事業規模と関連しており、事業規模が大きい方が影響が少なく、事業規模の小さな企業群の方がコロナ禍の減収影響が大きい。1000万円以下の企業は「減った」「変わらない」で2分された。3億以上は影響が少ない。翻訳分野ごとのコロナ禍の影響としては、ITは減少したが減収影響が小さい。ビジネス分野は影響が大きかった。仮説としては、調査を行った10月は製造業は回復しつつあったがビジネスはとり残されていたのではないか。その他は減収影響が大きかったが、その他の領域に「観光インバウンド」を報告した会社が16社/47社あったので、観光インバウンドの影響が出ているのではないか。
通訳事業の分野ごとのコロナ禍影響としては、「どちらとも言えない」と「減った」で二分された。回答企業の通訳事業の規模は1000万円以下の企業がほとんどであった。通訳は事業規模が大きいほうが影響が大きく、1000万円未満はどちらともいえないという回答になった。1000万円以上の企業は40%以上減が多かった。注意しておきたいのは、1000万円以下の企業には額がかなり小さい企業も含まれるので、件数が少ない企業には違いが感じられない可能性がある。そのため、全般的には通訳事業の方が翻訳事業より厳しい状況にあり減収影響が大きかったと解釈するほうが妥当であろう。また、通訳の分野までは詳細に追っていない。例えば、分野に特許を選んだ企業が特許通訳をメインとしているとはかぎらないためだ。
MT活用状況
MT活用状況は、「活用中」、「検討中」、「活用しない」で3分された。事業規模との関連では、翻訳事業規模が大きいほどMT活用に積極的で、1000万円未満は活用予定なし、1〜3億円は検討中、5億円以上は活用中となった。分野による活用の度合いは結論として有意な関連がなかった。工業技術分野はMT活用に積極的と出たが、「工業技術のMTが秀でているから」、「価格が厳しい案件が多いから」、「テクノロジーに積極的な企業が多いから」などの仮説に決定的なものがなかった。そこでさらに検証を進めて事業規模で分割したところ、MT活用と工業技術の関係は確認できなくなった。工業技術は事業規模が大きい企業が多いため、工業技術分野とMT活用の関連は、事業規模がもたらした媒介関係である。事業規模5〜10億円のレンジでは活用する予定がないという企業はなかった。
質疑応答
- Q. 年商1000万円未満は、法人化した個人も含まれているのでは?
- A. その可能性は大いにあるが、そこは特定していない。
- Q. 法人化した通訳者だが、周囲がすべからく影響を受けているのに、本報告書の「前年とかわらない」という回答に違和感を覚える。これは、通訳が本業でない、翻訳者の回答がメインだからか。
- A. マーケットも翻訳のほうが通訳より大きいので、そちらよりの回答が集まりやすいとは言えるかもしれない。JTF加盟各社からは、通訳事業に大きな影響があったとの声が上がっている。
2. 個人の部:齊藤貴昭
個人翻訳者・通訳者の概要
回答者の属性には性別を盛り込んでいる。本来男女の別で統計をとる必要がない状態が理想であるが、日本では、その社会背景からライフプランやキャリアプランに性別が影響しており、その影響を把握するために調査している。全回答者752名の内訳は翻訳者735名、通訳者140名(うち翻訳・通訳兼業125名)で、女性:男性=7:3である。年代は翻訳通訳とも女性は40〜50代が中心であるのに対し、男性40〜60代が中心となっており、女性と男性で現役としての活動時期が異なっている。経験年数データからみると翻訳者通訳者とも各年代で経験年数3年未満が一定数存在しており、年代に関係なく翻訳通訳を始めていることがわかる。翻訳者は経験年数が長い傾向にあり、40代以上では5年以上が大半を占める。
通訳者として回答した人の総収入に占める通訳収入は1/4ぐらいで、8割の人が年間200万未満であった。総収入すべてが通訳収入だった人は7名と少数であった。
翻訳者の総収入に占める翻訳収入は8〜9割であった。回答者の中から、専業翻訳者262名(翻訳収入100%、月16日以上1日5時間以上稼働、派遣アルバイト社員を除外)の翻訳収入を集計してみると、300〜400万のレンジがもっとも多く、200〜600万が65%を占める。ちなみに、1000万以上は4〜5%で10年以上・20年以上の長年経験を積んだ人となっている。
景況感・コロナ禍の影響
通訳の景況感は「前年比20%以上減った」が約30%、「どちらでもない」が約45%となっている。また、コロナ禍の影響で収入が「40%以上減った」という人が40%に上り、対面の多い通訳はイベントの中止などでコロナ禍の影響を大きく受けていると思われる。一方で、通訳方法自体も対面を必要としないオンライン化など、やり方や料金が変わってきていると思われるので、次回の調査では変化が見られるだろう。
翻訳の景況感は「どちらともいえない」が38.1%で、残りを「増えた」「減った」で二分している。コロナ禍の影響では「減った」という人が多い。分野別では工業技術はみな減っている。製造業の休業が影響していると推測される。
単価の推移
通訳者(派遣アルバイト社員のぞく)の料金単価は2〜4万/日が多く、34.1%を占める。1年未満は2万円以下の低価格で、経験と共に金額が増えているように見える。ただし、経験年数別データで経験が長い人の単価が高いのは、経験による単価アップによるものなのか、以前の高い単価が引き続いているのかは不明である。
翻訳者(派遣アルバイト社員のぞく)の翻訳料金は、英日翻訳の場合、翻訳会社からの単価は7〜15円/ワード、ソースクライアントからの単価11〜23円/ワード。分野別では翻訳者とソースクライアントの平均値に明確な差が出ているようだ。日英翻訳の場合、翻訳会社からの単価は、5〜7円/文字が44%と最多。ソースクライアントからとあまり差がないようだ。
機械翻訳
機械翻訳(MT)の使用状況は、全体では19.3%となり、社内翻訳者のみで集計すると36.8%、専業翻訳者では12.6%となった。使用の有無のみの質問なので、翻訳工程でどのような用途で使用しているかはわからない。社内翻訳者の使用率から企業での導入が進んでいると推測できる。使用するMTの種類は、有償版か無償版かはわからないが、Google翻訳やDeepLが6〜7割とトップ2を占める。ロゼッタは社内翻訳者の利用が多いので、企業利用が多いと推測される。
ポストエディット(PE)の受託状況
機械翻訳で出力したものをポストエディットする仕事は、25〜30%の翻訳者が受託しており、打診も含めると約50%にのぼる。分野別で浸透度合いに明確に差があり、多い順にIT、医薬、工業技術となっている。打診が増えたかという問いには、「増えた」という回答が6割に上り、ニューラル機械翻訳(NMT)の進歩によりMT利用が増え、それに伴いPEも増えたのが読み取れる。
質疑応答
- Q. ゲーム翻訳はどの分野に分類されているか?
- A. その他に入っている。
- Q. 経験年数が長いと直接取引が増えることが年収増の要因ではないか? 日英翻訳のレートが低いのは日本語ネイティブの回答だからではないか?
- A. 年数と年収のデータでは、年数が増えると直接取引が増えることがデータにも出ているので、それが年収に影響しているというのは要因としてあると思う。また、日英翻訳のレートが低いのが日本語ネイティブだからかという質問には、データの母国語の属性はわからないが、確かにJTFの調査であることからその可能性は否めない。
全体の質問数が多くなるので、極力回答者の負担を増やさず、可能な限り有益な内容を得るための質問に絞っていく必要がある。このように、時代で必要な情報も変わるので、皆様から質問項目の選択についてこれからもご意見をいただきたい。
翻訳白書の全文はこちらから:https://www.jtf.jp/tips/report