ISO/TC37 マドリッド総会参加レポート

ISO/TC37 マドリッド総会参加レポート
 

田嶌奈々
株式会社翻訳センター
品質管理推進部

市村美樹子
同左

 



名称●2012 Annual Meeting of ISO/TC 37
期間●2012年6月24日(日)~ 29日(金)
場所●AENOR head office(マドリード)
主催●ISO/TC37 and SC1-5/WG
詳細●http://www.iso.org/

 


 
 

スペインの夏は暑かった

2012年6月24日から6月29日の6日間、経済危機とEURO2012で世界中の注目を集めるスペインで、ISO/TC37マドリッド総会が開催されました。幸運にも本総会に参加する機会を与えられ、翻訳の規格制定の動向を探ることができました。本レポートでは、総会での論点や様子などを簡単に紹介したいと思います。

背景と目的

翻訳に特化した規格というと、欧州標準化委員会(CEN)の制定したEN15038という規格があり、特に欧州では数年前から普及が進んでいます。一方で、主に製造業や一般サービス業への適用を想定して策定されたISOの品質規格(ISO9001)は、翻訳業界に馴染みにくいということもあり、その普及が遅れている状況にあります。そのため、ISOはEN15038をベースにした翻訳に特化した品質規格の制定を急いでいます。過去数年にわたり検討されてきた規格原案は、固まりつつあり、これらの原案が正式なISO規格となれば、日本の翻訳業界にも少なからず影響が出ることが予想されます。そのような背景の中、規格原案の内容と今後の動向を探ることを目的に、翻訳サービスプロバイダーとして本総会へ出席することになりました。

ISO/TC37とは

ISOとは、国際規格を策定するための民間の非政府組織です。各国におけるもっとも代表的な標準化機関が会員となります。1カ国につき1機関のみが会員団体(Member Body)、通信会員(Correspondent Member)、購読会員(Subscriber Member)のいずれかの形態で加入することができます。会員団体はISO内の審議事項に対して参画し投票する権利を有しますが、日本はこの会員団体として1952年に日本工業標準調査会(JISC)が加入しています。
 
ISOは、主要な産業分野の標準化を、300近くの専門委員会(TC:Technical Committee)の下で行っており、翻訳・通訳に関しては、TC37「専門用語、言語、内容の情報資源」のさらに下位組織である分科委員会5(SC:Subcommittee 5)で取り扱っています。
SC5は、さらにワーキンググループ(WG:Working Group)1と2に分かれ、それぞれ翻訳、通訳に特化した議論が行われています。

 

 

SC5 WG1

今回のSC5 WG1には、計13カ国、約45名が参加し、これまでにない規模の人数から当該規格に対する各国の関心の高さをうかがい知ることができます。SC5 WG1では、下記2つの翻訳規格の策定を検討しました。
●17100 Requirements for translation services
 翻訳サービスの要件;主に翻訳会社が順守すべき要件
●14038 Assessment of translations
 翻訳の評価

 

▲国際会議というからにはピリッと緊張感のある雰囲気かと思いきや、
意外にもサンダル姿の参加者も多く、自由な雰囲気でした。

 

▼議論が行き詰まるたびにコーヒーブレイク・・・。


 

17100 Requirements for translation services


今後、マドリッド総会で行われた議論に基づいた17100原案の修正が行われ、その内容の確認と承認投票が参加国の間で行われる予定です。投票は8月に予定されています。
 
アジアからの参加国は極端に少なく、特に東南アジアからの参加はゼロでした。日本語が世界の中で希少言語にあたるかどうかは議論の余地がありますが、翻訳に対する公的な資格が存在せず、大学などの教育機関でも「翻訳」の学位がない日本において、日本語を母国語とする翻訳者の要件がどのように判断・適用されるかは注目する必要があります。
 
事前資料として原案に対する各国のコメントが配布されていたため、それぞれのコメントに対する改善案等もその場で議論されました。印象としては、やはり英語を母国語とする国やヨーロッパ諸国からの意見・主張が強く、対等に議論できるレベルの英語力を求められていることを痛感しました。普段から英語での議論に慣れていた方がいいことや、ISOの手続きに関する基礎知識の必要性も感じました。
 
本規格では、「校正(revise)の定義」、「校正作業を必須とするか否か」、「翻訳者は専門知識を示す資格を有するべきか」、「翻訳者の定期的な評価と記録保管の必要性」等を中心とした議論が行われました。原案には、翻訳サービスのプロセスや、翻訳サービスプロバイダー(フリーランス含む)としての要件定義が盛り込まれました。用語の定義や契約に必要な項目等の参考情報を含む、翻訳にとってモデルともワークフローとも解釈できる規格が完成する予定です。

 

(参考)
ステージ00 予備段階
ステージ10 提案段階 (PWI: Proposed Work Item)
ステージ20 作成段階 (WD: Work Document)
ステージ30 委員会段階 (CD: Committee Draft)・・・★17100はこの段階です
ステージ40 照会段階 (DIS: Draft International Standard)
ステージ50 承認段階 (FDIS: Final Draft International Standard)
ステージ60 発行段階 (IS: International Standard)

14038 Assessment of translations

本規格は、翻訳の評価に関する規格です。さて「翻訳」の評価とは、一体何を意味するのでしょうか。日本国内で議論をしても様々な意見が出ることが予想されます。それが言語・文化・経済状況などすべて異なる世界各国で議論されるわけですから、大混乱が予想されました。
 
予想通り、翻訳は「process」を意味する、「product」を意味する、「project」を意味すると議論は分かれ、誰が評価するのか、どのタイミングで評価するのかについても意見が分かれる結果となりました。「何」を評価するかによって、「誰」と「いつ」も異なってくるため、ひとつにまとまらないと先に進めないのも事実です。
 
残念ながら、本規格はマドリッド総会においてプロジェクトとして廃案となりました。ですが、どの国も何かしらの評価が必要という意見は一致しており、近いうちに新しいプロジェクトリーダー・構造・コンセプトのもと、翻訳の評価に関する原案が出てくる可能性は高く、目が離せない状況と言えます。
 
 
▲会議終了後は、盛り上がるスペイン人に混ざって観戦。スペインが負けたらどうしようかと内心はらはらの私たち。この日は無事、ポルトガルに勝利しました。勝利の瞬間の盛り上がりように思わず笑ってしまいました。

やっぱりスペインの夏は暑かった

ISO/TC37は、参加者の多くが継続して参加しており、前年の議論に対する意見や知った顔ぶれの間での根回しや、情報収集が頻繁に行われている状況から、計画的に人材を派遣する必要性を感じました。また、TC37の幹事国を中国が務め、SC2の議長を韓国が務める中、残念ながら今のところ日本の存在感は少し薄いように思いました。ですが、開催国としての参加を含め、今後も積極的に関与していくことでイニシアティブをとることも不可能ではないと思います。連日40℃を超える気温の中、世界各国を巻き込んだ熱い議論と、EURO2012準決勝・決勝を目前にしたスペインの熱気により、やっぱりスペインの夏は暑い!と感じる1週間でした。(市村)

 

15年前と変わらぬスペイン

機内で大きな歓声と拍手が沸き起ったのはまもなくマドリッド・バラハス空港に着陸というときでした。15年振りに聞くスペイン語のアナウンスから、EURO2012でスペインがフランスに勝利したことを知りました。もう真夜中に近いというのに機内はがやがや、ざわざわ、とにかくうるさい。ああ、スペインってこんな感じだった・・・。懐かしさがこみ上げてきました。スペイン語学科を卒業し、その後、翻訳会社に就職しながらもスペインを訪れる機会は見事にありませんでした。そんな中、巡ってきたチャンス。通貨はユーロに変われども、スペイン人の国民性に変化なし。スペインで開催されたからなのか、はたまた例年のことなのか、初参加の私たちには知るよしもありませんが、自由気まま、言いたいこと言い放題、計画性ゼロの終始まとまりのない会議を楽しませてもらいました(笑)。ISOは、国際会議を運営するための規格を作るべきでは?と思わず言いたくなるほど。来年は南アフリカでの開催です。どなたか、この実態を見に行く勇気のある方はいらっしゃいませんか?(田嶌)
 

 

共有