日本翻訳連盟(JTF)

SDL WorldServerおよびSDL Studio GroupShare 説明会 ~サーバーを利用し たデータ共有と翻訳ワークフローの管理~

2013年度第1回JTF翻訳支援ツール説明会
SDL WorldServerおよびSDL Studio GroupShare 説明会~サーバーを利用し たデータ共有と翻訳ワークフローの管理~

佐藤弦氏
SDL ジャパン株式会社 LSP パートナー マネージャー


 



2013年度第1回JTF翻訳支援ツール説明会
2013年7月5日(金)14:00~16:30
開催場所●GMOスピード翻訳株式会社
テーマ●SDL WorldServer および SDL Studio GroupShare 説明会 ~サーバーを利用したデータ共有と翻訳ワークフローの管理~
講師●佐藤弦氏(SDL ジャパン株式会社 LSP パートナー マネージャー)
報告者●野崎 実和子(Welocalize Japan 株式会社 プロジェクト マネージャー)

 


はじめに

 言語数の増加、プロジェクトの短期化、プロジェクトのアジャイル化など、ニーズの多様化により今後、翻訳業界ではますますマネジメントの観点が要になってきている。

 翻訳コストは下げられないが、少量のプロジェクトが複数発生するようなビジネス ケースが近年増える傾向にあり、手動のプロジェクト管理部分の負荷が増えている状況にある。また、案件が多数同時に進行することで、翻訳プロセスの全体像を把握すること自体が難しい。
 したがって、いかにプロジェクト管理プロセスを単純化することができるかがますます重要な要素となってきている。

 今回紹介するWorld ServerとGroupShareはそれらの問題を克服するための仕組みのひとつである。これらを導入することでどういった効果があるか、説明する。
 それぞれの立場で必要なニーズ、作業規模に基づいてツールを選択すると効果的である。例えば、Group Shareは複数人規模でデータを共有しながら翻訳をする場合(Trados Studioは所有していることを前提)に、World Serverはさらにもう少し母体の大きい規模での翻訳時に、ワークフロー全体の管理を視野に入れた場合に、より効果的に機能する。

第一部: SDL World Server (翻訳ワークフローの管理)

プロセス管理者向けのツール

 World Serverは、サーバー上でのプロセスの自動化、情報の一元管理、リアルタイムでの情報共有というソリューションを提供し、プロジェクトのプロセス自体の単純化、また効率化を図ることができる。

機能

 一通りのプロジェクト管理プロセスを全てサーバー上のやり取りにすることが可能。例えば複数の翻訳会社と取引がある場合、各会社のデータや単価等を予め関連付けることができ、オンライン上のメモリを使った解析結果を踏まえて会社ごとの見積もりを作成し、事前にシミュレーションすることができる。またクライアント側/LSP側のPMが複数言語を一度に扱う場合、手動でプロジェクト管理をすることは難しいが、メールの自動配信機能等を使用することで、容易にプロジェクト管理ができるようになる。翻訳会社ないしは案件ごとの品質比較チャートを作成することもでき、クオリティ管理も可能である。他にも情報の共有も簡単である。全てのユーザーにログイン情報を提供することができるため、LSP視点で見ると、例えば5人の翻訳者と契約がある場合、翻訳ファイルの準備が整いプロジェクトがサーバー上で出来上がると、契約している5人全員に通知され、開始可能な人から順に当該案件を開始してもらうことができる。また、メモリ・用語集もサーバー上で一元管理することで、オンライン上ではリアルタイムに最新のメモリを相互参照することが可能である。

導入に向けて

 World Serverはクライアント、LSP、それぞれのニーズに合わせて設計をすることができる。インストール[i]、SDL社のヒヤリング、環境設定、トレーニングを終了すれば使用開始できる。SDL社が企業ごとにコンサルティングをし、自動化できるもの、できないものを振り分ける。ある会社では、22の手動タスクがあったものが4つに減ったというケースもある。

 翻訳は翻訳エディターの機能はないのでTrados Studio/Idiom Desktop Workbench[ii]を使用し、オフラインで作業することになる。クライアント企業が個人の翻訳者と直接コンタクトを取ってプロジェクトを進行させることも可能だが、日本ではLSPが翻訳パッケージをダウンロードし、オフラインで翻訳者に渡す方法が主流。したがって、翻訳者の案件対応方法は従来どおり、LSPを介し、翻訳支援ツールを使用してオフラインでの作業が可能である[iii]


第二部: SDL Studio GroupShare (プロジェクト管理の効率化)

SDL Trados Studio (翻訳の効率化) からのステップアップ

 Studio GroupShare の最大の特徴は、データの一元管理、リアルタイム共有である。それにより、コーディネート負荷、レビュー負荷を軽減することができる。TM Server, MultiTerm Server、Project Server という3つのサーバーを使用してそれらを実現する。 3つのサーバーをすべて使用する/導入する必要はない。

Trados Studio を使用した翻訳プロセスでは不十分と考えられる部分や、効率化を促すのに効果的だと思われる部分に対して、必要なコンポーネントのみを追加することができる。WorldServerが翻訳ワークフローの標準化を行うツールであるのに対し、Studio GroupShareは、Trados Studioを使用した翻訳ワークフローを改善するための付加的なツールである。

機能

TM Server
 従来のようにファイル共有タイプの翻訳メモリを使用したワークフローでは、翻訳者間で用語や文体の統一が取りにくいため、翻訳終了後にメモリのメンテナンスが必須となっていた。また、翻訳メモリはコピーして配布することが多いため、どれが最新のものかが一目で分かりにくく、管理が杜撰になりやすい問題があった。

 それに対してGroupShareのTM サーバーを使用することでインターネットを経由してリアルタイムにサーバー上にあるメインの翻訳メモリを相互共有することができることで上記の問題を解決することができる[iv]。このサーバーの導入がGroupShareを採用するLSP等では大半を占める。

Project Server
Trados Studio 2009から「プロジェクト」という概念が導入され、プロジェクトを選べば、ファイル、メモリ、用語集を個別に開かずに一度に参照することが可能になった。このプロジェクトをデスクトップレベルではなく、サーバーレベルで共有することができるのが Project Serverである。コーディネーターがプロジェクトを作成、分割 (翻訳途中にも可能)することも、翻訳プロセス、レビュープロセスもこのServerを使用すれば容易に可能である。

Multiterm Server
用語集管理を簡素化したいニーズに対応。責任者、更新時期等が不透明になりがちだが、マスター 用語集をオンラインで共有し、用語の更新をすべての関係者に「見える化」することで解決をはかる。ある程度大きめのボリュームの案件を対応するクライアント企業、マニュアル製作会社等にニーズがある場合がある。

 

おわりに

プロジェクトを文字通りマネジメントすることがこの変動する時代の中でキーポイントになってくる。それぞれの課題やゴールを今一度確認し、それらを克服するためには何がベストなのか、有効な仕組みを積極的に取り入れてまいりたい。
 


[i] SaaSもしくは自社サーバーへのインストールという形で提供される。自社サーバーへのインストールについては1~2日程度。

[ii] Idiom Desktop Workbenchのサポートは既に終了しているが、古いバージョンからのユーザーで使用している企業がいくつかある。

[iii] オンラインでも使用するOnline Workbenchも存在することはしているが、翻訳の効率化を考えると、Trados StudioやIdiom Desktop workbenchに比べて機能が不十分。ベスト プラクティスとして、翻訳時はTrados Studio, オンライン上のeditorはレビュー時に使用することを推奨している。

[iv] リアルタイムで各翻訳者がメモリを更新することで、粗悪な翻訳が翻訳メモリ(誤字脱字、誤訳等)に登録され、それらを複数人で共有、使用し続けてしまうというリスクも考えられる。そういった懸念に対しては、翻訳用の TM とレビュー用の TM を分け、信頼度に応じて TM にヒエラルキーを作ることで解決できる部分がある。問題と効果(この場合は効率化)を比較した際のメリット、デメリットの大きさで導入するか否かを考えることが必要となる。
 

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