日本翻訳連盟(JTF)

3-2 中国語翻訳のブルーオーシャン戦略 ~リソース管理、人材育成、品管管理に挑む現場奮闘記~

仲谷 幸嗣

(株)トランスワード
代表取締役

大羽 りん

(株)シー・コミュニケーションズ
代表取締役

報告者●新田順也(エヌ・アイ・ティー株式会社 特許翻訳者、翻訳支援ソフト開発者)



前半は仲谷氏の講演。「大手企業からの信頼を得るためには自分が信じる翻訳の考え方・ノウハウを基に品質管理を徹底する必要がある。」こんな想いで仲谷氏は翻訳会社を設立した。そのため、翻訳者を雇用して翻訳を内製する経営方針となった。広島本社の独自の経営スタイルと資源を活用して、中国の大連で翻訳会社を経営している。中国の国内事情を考慮した戦略的な人材の採用・育成も、中国での会社経営の基盤になっていると感じた。「中国で楽な商売はない」との仲谷氏の締めの言葉の通り、中国の翻訳会社経営は国内外の様々な試行錯誤の成果であると思った。

会社概要(3つの特徴)

(1)人材を育成しながらビジネスをする

翻訳者を雇い翻訳の内製をするのがトランスワードのスタイル。「いつでも同じ品質の翻訳を提供することによって、クライアントを安心させることができる」との考えから、仲谷氏自らが講師をして社内向け翻訳教室を開催してきた。後に、その社内教育資料が通信教育として販売されることになった。 

(2)受注した翻訳案件の9割を内製

品質管理のために案件の9割を内製している。臨機応変に社内で翻訳者を振り分けることができるため、クライアントからの大量・短納期などの要求に十分に対応できる。結果として、クライアントの役に立てると考える。

(3)社内作業の効率化

事務作業を徹底的に自動化している(仲谷氏いわく、「メーカー以上の努力をしている」)。過去の翻訳データ、請求書、見積書などを数クリックで開けるファイル管理システムを開発した。このシステムも顧客向けにカスタマイズして販売している。

中国(大連)での翻訳会社経営

クライアントからのコストダウンと品質向上の要求により中国進出を決定。最初は現地の企業と提携するも、納期や品質で問題があった。そのため、仲谷氏自らが代表となり子会社を設立(リスク管理のために現地採用の中国人社員は代表にしない方針)。

採用した社員の流出を防ぐため、出身地を採用基準としたり、初任給を一律にして社員のやる気を管理したり、また転職情報から社員を隔離するために会社を田舎に移転したりと、様々な工夫を重ねてきた。また、翻訳者の教育に広島本社で作成したテキストを利用している。さらには人材育成プログラムに基づき、社内の様々な業務(チェッカー、編集、コーディネータ、翻訳)を社員に担当させている。



後半は、「日本での中国語翻訳の現状と中国語翻訳者の育成」と題して、大羽氏が講演した。中国語一筋で会社を経営してきた大羽氏の多彩でエネルギーにあふれる仕事ぶりが印象に残った。現役翻訳者である大羽氏は、翻訳祭前夜も夜11時まで翻訳をしていたとのこと。中国語の市場規模から考えて、生活費を稼ぐためには何でもする必要があったとのこと。そのため、大羽氏は翻訳と通訳の両方をこなし、分野を限定せずに仕事を受け、さらには中国語講師の仕事もしてきたという。大羽氏の会社における翻訳品質の向上や登録翻訳者の教育のための仕組みは、中国語翻訳以外の会社経営でも参考になることがあると思った。数値化して客観的に判断し、その結果を仕組みに反映する経営姿勢が印象的だった。

中国語翻訳の市場

中国語の翻訳市場は常に伸び続けている。ビジネス自体が中国語に関わりを持っているから。中国語翻訳者が増える一方で、きちんと訳せる人がいないというのが現状である。中国人の中には、「翻訳は一時的な職業」との認識が一般的にあるため、スキルアップをしない人が多い。今後の日中翻訳においても、日本人翻訳者の活躍の場があると思われるとのこと。

ブルーオーシャン戦略

今までは、守備範囲の広い翻訳者(何でも屋)が求められていた。その一方で、最先端分野の人材が不足傾向にあった。今後は、特定分野に適度に特化することも必要と考える。

具体例

翻訳者の評価システムや育成プログラムを開発し、翻訳者が得意な分野で活躍できるように適材適所の仕事配分を試みている。

社内での品質管理として、クロスチェックを導入。日本人と中国人が原文と訳文を見比べディスカッションを重ねてすり合わせをする。このことで、最終チェックにおいて翻訳者からの訳文が改悪されてしまうリスクを回避でき、品質も向上する。

翻訳・通訳者の育成システムを、心理学理論である「交流分析」を取入れて構築した。本人の意思で翻訳と通訳を両方行き来できるようにプログラムされていることがポイント。

社員のキャリアアップの支援として、意図的に社員に様々な経験をさせている。社員は、編集、コーディネート、チェックなどの業務を1人ですべて担当する。このように幅広い業務を経験することで、社員が自分の特性を把握できるようになるとのこと。

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