日本翻訳連盟(JTF)

「Memsource」「Transit NXT」の紹介

2014年度第2回JTF翻訳支援ツール説明会報告 
「Memsource」「Transit NXT」の紹介


加藤 じゅんこ


(株)翻訳センター 業務推進部にて、翻訳支援ツールのサポート業務・社内ツール開発業務にあたる。Memsourceについては導入当初より、社内外教育・サポート業務・ツールの不具合検証を行う。Memsourceに関する知識については日本で3本の指に入ると自認。
http://www.honyakuctr.com/
 

目次 由美子


サンフランシスコ州立大学卒。1998年にシュタール ジャパンに入社し、国産自動車メーカーの取扱説明書の欧州言語版作成、整備関連テキストの16言語翻訳などの多言語翻訳プロジェクトに取り組む。自社開発の翻訳支援ツールTransitの社内外ユーザーサポート業務も担当。2002年にはSTAR Paris(フランス)に1年間滞在し、現地担当者と共に多言語翻訳プロジェクトを推進。STAR AG本社(スイス)へも赴き、シュタール製品の理解を深めるだけでなく、各オフィスの担当者とも交流を温める。現在は「Transitスペシャリスト」として、最新版Transit NXTを国内で幅広く紹介している。
http://www.starjapan.co.jp/

 



2014年度 第2回JTF翻訳支援ツール説明会
日時●2015年2月24日(火)14:00~16:30
開催場所●GMOスピード翻訳株式会社 大1会議室
テーマ●翻訳支援ツール「Memsource」、「Transit NXT」の紹介
プレゼンター●株式会社翻訳センター 業務推進部
加藤 じゅんこ Kato Junko
●株式会社シュタール ジャパン Transitスペシャリスト
目次 由美子 Metsugi Yumiko
報告者●成田 崇宏(株式会社ホンヤク社)

 



 今回のセミナーでは、翻訳支援ツール「Memsource」と「Transit NXT」について、㈱翻訳センターの加藤じゅんこ氏と、㈱シュタール ジャパンの目次由美子氏より、機能紹介やデモを行っていただいた。

第1部 Memsource(加藤じゅんこ氏)

概要

 加藤氏がMemsourceと出会ったのは2012年のこと。チェコ生まれの同ツールが2011年に有償版をリリースしてから間もなくのことで、その頃まだ日本での知名度はほとんどなかった。導入当初は、不具合が発生したり、アバウトなマニュアルに困ったり、前触れ無く新機能が搭載されたり、ということがあった。しかしながら同時にそれらは、サポート対応の早さ、シンプルな操作性、開発スピードの速さといったMemsourceの長所を示すものでもあった。特に、Memsourceは開発に力をいれており、開発力が高いことが特徴の会社といえる。

 また、翻訳会社としては、操作のしやすさと、翻訳者に無償でライセンスを提供できる点が魅力であった。現在では、Memsourceのユーザー数は世界中で30,000名を超え、また、シトロエン社やTextMinded社といった大企業を顧客に持っている。Memsourceのエディションは、翻訳者および翻訳会社向けが5つ、企業向けが3つあり、有料版はすべて、30日間の試用ができる。

デモ

 Memsourceは、プロジェクトに関するすべてのデータをクラウド上で管理する。今回の説明会では、プロジェクトの立ち上げから翻訳物が仕上がるまでの一連の流れを、サンプルを用いて実際にデモしていただいた。

 MemsourceのUIはすっきりとしていて、画面回りは直感的な操作ができるような作りになっているが、使いやすさだけが追求されているわけではなく、プロジェクトマネージャーや翻訳者にとって役に立つさまざまな機能も搭載されている。その一部は以下の通り。
ステータス管理とメール通知
 プロジェクトはステータスで管理される。翻訳者が案件を確認したときと翻訳を完了したときにステータスを変更すると、その情報は自動でプロジェクトマネージャーにメールで通知される。また、翻訳の進行状況はプロジェクト管理画面上でパーセンテージで表示され、プロジェクトマネージャーは、ほぼリアルタイムで進捗を確認できる。
解析機能
 原文データをMemsourceにインポートする際、インポート対象箇所(MS Wordのコメント、Excelの非表示セル、PowerPointのノートなど)をファイル形式ごとに指定できる。解析結果には、あらかじめ設定した課金率をボタン1つで反映させることができる。また、翻訳メモリの設定時に、メインではない参考用のメモリにペナルティを課すことで、翻訳時の一致率に人為的に差を付けることも可能。
QAチェック(品質保証)機能
 数字、用語、タグといった文書内の要素に対して、プロジェクトごとにQAチェックの項目を詳細に設定することができる。
Wordバイリンガルファイルへの書き出し
 対訳形式のWordファイルの書き出しが可能で、Memsourceを使える環境がなくてもチェックやプルーフなどを行える。作業後、WordファイルをMemsourceに取り込み・反映も可能。
機械翻訳
 10を超える機械翻訳エンジン/サービスに対応している。
(参考サイト:http://wiki.memsource.com/wiki/Machine_Translation
 

第2部 Transit NXT(目次由美子氏)

概要

 シュタール ジャパン社は、多言語での産業翻訳、DTP、技術情報マネジメント業務を展開している。スイス本社のSTAR AGは昨年30周年を迎え、STARグループは世界31カ国に40以上の拠点を持つ。ネイティブが翻訳を担当するという「翻訳現地主義」のもとSTARグループはこれまでに多くのグローバル企業に向けて多言語翻訳および最先端技術によるソリューションを提供してきた。その中で、自社開発の翻訳支援ツールであるTransitは同社の主力製品であり、1996年の日本語対応版のリリース以来バージョンアップを続けてきた。2009年にリリースされたTransit NXTは、飛躍的に向上した機能性・効率性と優れた操作性を兼ね備えており、リリース後も約1年間隔で機能拡張のためのサービスパックを無償提供している。エディションは3種類あり、機能制限のないProfessional版のほかに、Freelance Pro版とWorkStation版がある。今回のセミナーでは、今年リリースされたばかりのサービスパック8の新機能について、実際の画面を使って説明していただいた。

デモ

 Transitにおける標準的な翻訳プロジェクトのフローは、プロジェクト作成(原文データの指定や原語・訳語の設定)、インポート(テキストおよびレイアウト情報の分離)、プリトランスレーション(メモリに100%一致したセグメントを自動翻訳)、翻訳(メモリや辞書を活用した、あいまい一致ならびに新規セグメントの翻訳)、エクスポート(テキストおよびレイアウト情報の統合)で構成される。Transitの最大の特徴はコンテキストの重視であり、翻訳したランゲージペアを文単位で区切らないまま翻訳メモリとして使用でき、章や文書全体の文脈的情報を参照マテリアルとして蓄積できるため、文書の構造や文脈を考慮した訳し分けが可能となる。
 今回のサービスパック8では、主に以下の機能が追加・強化された。
エディター機能
 従来の検索機能にカウント(検索したテキストが何回出現するか)、マーキング(色を付ける)といった機能が追加された。
品質保証機能
 フォーマットチェック(数字・マークアップなど)の設定をセットして保存できるため、特定のクライアント向けのセットを作ったり、プロジェクトマネージャーと翻訳者間でチェック項目を共有したりできるようになった。
改訂履歴の追跡
 セグメントごとに改訂の履歴が確認できるようになった。翻訳者、チェッカーがそれぞれどのように訳文を作成したかを見て、必要に応じて元に戻すことが可能。また、品質レポート機能(有償オプション)で履歴の一覧表示もできる。
用語管理機能
 用語集内での重複を回避するために、重複フィルタが設けられた。
機械翻訳の対応
 エディターMT(不特定ユーザー向けのオンライン機械翻訳サービス)とインポートMT(顧客専用の機械翻訳システム)の2種類を利用できる。
対応ファイル形式の増加
 Office 2013、InDesign CC 2014、FrameMaker 12に新たに対応。また、SDL Trados Studioのパッケージファイル(SDLPPXとSDLRPX)にも対応できるようになった。
字幕翻訳機能
 該当する字幕テキストが出現する箇所を動画で部分的に再生しながら翻訳できる。新たにWebVTTにも対応。
 

まとめ・感想

 印象としては、Memsourceは業界では若い翻訳支援ツールで、ツール初心者にも取り扱いやすく作られているのが大きな特徴であり、一方でTransitは20年以上の歴史があることからツールとしては円熟しており、専門的で複雑なプロジェクトにも幅広く対応できることが強みであると感じられた。今後、両ツールともに、さらに機能面・操作面において進化すると思われるため、新しい情報を積極的に入手したい。
 

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