翻訳の品質管理とツールの活用(TransQAを題材に)

2015年度第4回JTF翻訳セミナー報告
翻訳の品質管理とツールの活用(TransQAを題材に)

小林 卓

IT業界でSEとして10余年勤務。その間、各種のシステム構築を手がけ、官庁主催の技術標準化ワーキンググループにも参加。その後、翻訳業界に転身。3年間の会社勤務を経て独立。今に至る。
 



2015年度JTF第4回翻訳セミナー報告
日時●2015年12月17日(木)14:00 ~ 16:40
開催場所●剛堂会館
テーマ●「翻訳の品質管理とツールの活用(TransQAを題材に)」
登壇者●小林 卓 翻訳工房ベルテック 代表

報告者●太田和江(WIPジャパン株式会社)
 



講師は翻訳工房ベルテック代表小林卓氏。翻訳の品質管理という枠組みの中で、チェックツールの活用方法および実践的なチェックのあり方について、氏が作成されたTransQAを題材にご講義いただいた。

翻訳の品質

翻訳の品質チェックでは、原文の書かれている内容を漏れなく訳出し、読む人が誤読しない文として再構成し、校閲するというプロセスを経て、翻訳が目標どおりの品質を達成しているかが確認される。チェックは基本的に人手による作業だが、ルールが複雑であったり、チェック対象が大量であったりする場合、チェック漏れなどの弊害が生まれることがある。

QAチェックツールとは

QAチェックツールはプロジェクトで求められる規則に従っているかどうかをチェックするツールであり、あくまでも対象は規則である。専門用語をあらかじめ原稿に置き換えることで、誤訳の発生を抑えられる。
チェック作業では、気をつけていてもどうしても漏れがでてきてしまう。ツールは、その漏れを拾い上げることで、「品質」を向上させる手助けをしてくれるものである。

QAチェックツールの特徴

おもにIT分野の英日翻訳でよく使われており、スタイルガイドに従っているかどうか、用語集に従っているかなどがチェックできる。
スタイルガイドは、ソースクライアントやエージェントから支給されることが多いが、Tradosなどのツールとセットになっている場合には、チェック内容ごとにツールが分かれるなどの制約が多いのが難点である。
専門用語を間違えるのは致命的だが、人手で確実にチェックするには限界がある。機械的にチェックできるツールがあれば、担当者は人にしかできない作業に集中できるようになり、ベストといえるだろう。
ツールには市販されているものもあり、ユーザー自身がチェックツールを定義できるなど、ある程度の柔軟性は備わっている。
本質的な部分ではなく外周的なチェックをすることがチェックツールの得意領域といえる。
QAチェックツールの基本的な仕組みとして、スタイル系処理と用語系処理がある。スタイル系処理は間違ったパターンを正規表現などで定義し、用語系処理は原文にはあるが訳文では対応するものがない用語などをチェックする。

校正機能とQAチェックツールの違い

・校正機能(Word)とは、構文を解釈したうえで誤りを検出する機能である。例えば、「てにをは」が誤って使われている箇所を検出したり、全文をなめて表記のゆれを検出したりできる。ただ、原文と訳文との対比でチェックすることはできない。
・QAチェックツールは、パターンに当てはまったものを誤りとして認識する。例えば、半角文字の後にスペースなしで全角文字が続いている箇所を誤りとして検出するなど、あくまでも原文と訳文の1セットに対してのバグを検出する。そのため、全体の表記のゆれはチェックできない。相互に補完して使うことに一考の価値があるだろう。

 QAチェックツールの限界

何でもチェック可能な万能ツールではない。パターン化できる規則にも限界があり、条件が複雑すぎる場合は実装できないケースが多い。イレギュラーなケースが検出されることもある。
基本的にチェックが必要であるが、チェックツールには実装しにくい規則として、「カタカナ複合語の場合、2語で構成される場合は中黒なし、3語以上になると中黒あり」などが挙げられる。定義が複雑な場合、落としどころを見つけることも必要である。

 QAチェックツールの導入効果

・翻訳者の視点から見た導入効果は、納品前にファイルをきれいにしてから渡すための誤字脱字や誤記のケアレスミスを検出できることであり、翻訳の見直しが終わった後にチェックツールをかけることで精神的な安定を得ることができる。
・翻訳会社の視点からは、複数の翻訳者に分けて渡しているファイルの訳ゆれを検出でき、クライアントの指示が徹底されているかどうかが検査できることである。こちらも精神的な安定剤として作用する。また、チェックツールの取っ付きにくさに対する克服として、典型的なパターンを実装することや説明書を充実させる、ルールを自動的に作成するといったことが必要である。また、複雑な規則にもある程度対応できる柔軟さも必要であろう。

 TransQAの強み

単なるチェックツールではない。既存のリソースからスタイル定義を自動作成できるチェックパターンの自動作成機能や、スタイル定義のライブラリーやひな形を搭載しており、頻出用語の抽出機能なども備えた総合的なチェックツールである。またJTF日本標準スタイルガイドルールを実装している。

 TransQAの基本的な概念

プロジェクト固有の情報(ユーザーが管理)とプロジェクト共通の情報(システムが管理)という2つの体系から構成され、これらを任意に組み合わせてチェックする。
全体的に比較すると、Xbench(バージョン2.9)はファイルの処理に強く、TransQAは日本語特有の処理に強い。
 

まとめ

チェックツールに慣れるには技術的な知識が必要であるため、正規表現やWordのワイルドカードに関する知識はあった方が良い。また、現実的な「解」を得るまでは試行錯誤も必要である。
ハードルが高そうな気がするが、一回定義すると何回も使いまわすことができ、後が楽になるので便利である。最終的にQAチェックツールを用いてチェックすることで心理的にも楽になるので、これはチェックツールのメリットと言える。

 TransQAに関する情報

最新版のバージョン番号は0.2.5.7。また、バグ改修版の次期バージョン(0.2.5.8)が年頭にリリース予定。当面はフリーソフトとなる。
 
・ツールのダウンロードはこちら
http://www7b.biglobe.ne.jp/~taku3/toolindex.html
 
・ツールに関する情報はこちら
http://www7b.biglobe.ne.jp/~taku3/TransQA/Help/
 
チェックツールに関するご相談は、taku3@kzc.biglobe.ne.jpまで、お気軽にご相談下さい。
 

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