外資クライアント企業日本語ローカライズ担当者の攻略方法教えます ~翻訳者・サービスプロバイダーには何が求められているのか~

2015年度第5回JTF翻訳セミナー報告
外資クライアント企業日本語ローカライズ担当者の攻略方法教えます ~翻訳者・サービスプロバイダーには何が求められているのか~

上田 有佳子


神戸大学で認知心理学を専攻、卒業後は国内IT企業でシステム開発に携わる。その後、フリーランス翻訳者、日本のIT企業内でのローカライズ部門勤務を経て、外資系IT企業に転職。2011年より、米国に本社を持つ、企業向けストレージおよびデータ管理ソリューションを提供するネットアップ株式会社に勤務。15か国のメンバーで構成されるグローバリゼーション部門において、製品ローカライズのプロセス改善や品質管理、機械翻訳の導入、ならびにAPACチームのマネジメントに従事。また、2015年3月には、米カリフォルニア州に本部を置くWomen in Localizationの日本支部を立ち上げた。3人の子の母でもある。

「ネットアップ株式会社」
http://www.netapp.com/jp/
「Women in Localization」
http://womeninlocalization.com/
 



2015年度JTF第5回翻訳セミナー報告
日時●2016年2月9日(火)14:00~16:40
開催場所●剛堂会館
テーマ●「外資クライアント企業日本語ローカライズ担当者の攻略方法教えます
~翻訳者・サービスプロバイダーには何が求められているのか~」
登壇者●上田 有佳子 Ueda Yukako
ネットアップ株式会社 Global Content Management APAC Lead
Women in Localization Japan 代表
報告者●小田島耕治(株式会社アットグローバル)

 


自己紹介

結婚後、IT企業に入社しシステム開発を担当。3~4年間勤務後、フリーの翻訳者に転身。当時の翻訳品質はかなりひどかった。用語も固まっておらず、ITの知識を持たない翻訳者も多かった。自分でも翻訳ができるのではないか、IT翻訳の品質を向上させることができるのではないかと考え、翻訳者になった。その後、外資系のローカライズ会社に勤務。レイオフで退職後、Yonkers(MLV)に2年間勤務。さらに、ネットアップ社に転職し、日本語のローカリゼーションの責任者(LPM)として現在に至る。

ネットアップ社とは(http://www.netapp.com/jp/

ストレージに関連した多数の分野でNo.1の導入実績を達成(ストレージオペレーティングシステム世界シェアNo.1、パブリッククラウドストレージシステム世界シェアNo.1、総合インフラシステム出荷容量世界シェアNo.1)。お客様満足度、働きがいのある会社ともに、上位にランクイン。

入社後のさまざまな葛藤と苦労

製品はすばらしくても、それだけでは日本では売れない。ローカライズが必要。とはいえ、入社したてのネットアップ社内は、マーケティング資料の訳質が悪かったため、マーケティング部門とローカリゼーション部門の関係がかなり悪かった。とにもかくにも、翻訳後の原稿のリライトを他のメンバーと5人で開始。するとQ2のときに上司からいきなり連絡が来て、予算がなくなったのでレビューをやるなと言ってきた。結果、アメリカに渡り上司のアナに直談判し、日本のマーケットの特殊性を力説。日本語のバジェットは増やしてもらえたが、その分、他の言語のバジェットが減らされたことを後に知り、複雑な思いになったりもした。

ローカライズ予算の決まり方

・主に、この製品をローカライズすると、売上がどの程度上がるのかで判断される。
・アップデート時に予算の見直しが入る。売上が思わしくない場合、中止になることもある。
・予算は四半期ごとに決まるが、前期の売り上げ実績に基づいて見直されるため、その影響も受ける。

外資系社員の孤独とジレンマ

・社内関係各署の間での、ローカライズについての認識のずれ。
・エンジニアが英語と日本語の言語特性の違いを理解していないために、かなり初歩的な突っ込みが来る。
・予算削減のため、100% match部分のレビューをするなと平気で指示してくる。
こうした点を社内担当者に説明するのに異常に手間がかかる。受注側も同じ悩みを発注側に感じることがあるかもしれないが、このような悩みは外資系の発注担当者も多かれ少なかれ持っている。その点を理解し、ぜひ「同志」として戦っていただけないだろうか。

最初にやったこと-ベンダーを信じていることを伝えること

そもそも、翻訳ベンダーがレビューしたものを、発注側がなぜさらにレビューしなければならないのか(「レビューの上塗り」のようなもの)。ベンダーに対して、発注側の要件が十分に伝わっていないことが原因ではないか。まずはベンダー側に、ベンダーの品質を信じていることを伝えるところから始めた。加えて、スタイルガイドの整備、社内チェックツールの一部開放などを行った。結果として、ワード数が2倍に増えたのにレビュー時間は変わらなくなった。「相互信頼」は大切だということを実感した。

こんなときどうする? 発注条件が厳しいとき-交渉あるのみ

例えば、スケジュールがきついときどうするか。交渉するべき。スケジュール上どうしようもないこともあるが、納期の連絡ミスということもある。品質を保つためにはこれくらい必要とか、春節で休みだとか、事情を説明すれば検討してもらえることも多い。
予算が厳しく、赤字になるときはどうするか。交渉するべき。「赤字覚悟」という考え方は、外資系の会社には理解も感謝もされない。予算は海外のヘッドクォーターが決めて、実案件は日本法人から来る場合、ヘッドはシンプルな要求しかしていないのに、日本法人が複雑な要求をベンダーにすることもあり得る。他の言語と日本語の違いをよく理解していないため、日本語はコストがかかることを理解していない可能性もある。いずれにしても、「交渉」「交渉」「交渉」。

こんなときどうする? 内容が分からないとき、原文が間違っているとき-報告が欲しい

調査をしても分からない場合は、クエリシートで報告して欲しい。ベンダーからコメントがないと、何の問題もなかったと発注側は判断してしまう。不明点が生じる原因は、原文が悪いケースが70%、テクニカルな問題が29%、翻訳者の実力不足は1%程度。恐れずにコメントして欲しい。原文の間違いのケースでは特にコメントが欲しい。複数言語にローカライズする場合、日本語だけ直っていると問題になることもある。発注元を助けると思って、教えて欲しい。

こんなときどうする? 機械翻訳を導入すると言われたら-説明、話し合い

機械翻訳を導入する(ポストエディットを依頼する)と言われたら翻訳者の99%はいやがる。体のいいディスカウント要求だと考える。でも、アメリカ人は工数を純粋に削減できると信じている。純粋に工数削減につながるのであれば、前向きにとらえて協力して欲しい。本当に工数が削減できないのであれば、クライアント担当者をまきこんで、実例をいくつか挙げながら工数・負荷について根拠を示す。

今回伝えたかったメッセージ

発注担当者からすると、「同志」としてプロジェクトに取り組んでもらえると助かる。相互に信頼し、信頼されているという実感を持って共に戦っていただけるとうれしい。これが、今回のセミナーで伝えたかったメッセージ。
 
2015年3月にWomen in Localization Japanという組織を作った。現在のところメンバーは女性のみ。3ヶ月に1度くらいの頻度で、翻訳に役立つセミナーを開催。食事と飲み物が必須。イベントがきっかけで、ビジネスの話が進展したりもしている。関心があれば、ぜひご連絡を!
 


 

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