4-E 制限言語の世界共通規格化を考える―制限言語を活用して翻訳のわかりやすさを向上させる

中村 哲三 Nakamura Tetsuzo

(一財)テクニカルコミュニケーター協会理事
日本におけるテクニカルコミュニケーション活動の中核的存在であるTC 協会で、英文ライティングのセミナーやパネルディスカッションなどを企画。著書に「英文テクニカルライティング70 の鉄則」(日経BP 社刊) がある。


報告者:長谷川祐子

 


概要

このセッションでは、まず、テクニカルライティングと比較することでControlled Englishの基礎を理解する。これにより、Controlled Englishの特性がよく理解できる。次に、代表的なControlled Englishを3つ紹介する。Controlled Englishにもいろいろと種類があり、その使命や目的によって選択する必要がある。さらには、「わかりやすく翻訳しやすい日本語77のルール」を紹介し、その制限言語ルールを英文ライティングに適用することを考える。つまり、制限言語を世界共通規格化することを検討する。

講演内容

 Controlled Language (制限言語)は、わかりやすく翻訳しやすい文を書くためのライティングルールである。制限言語は、1930年にイギリスの言語学者C. OgdenがBasic Englishを発表して以来、特にControlled English(以下、CE)として発展してきた。私は、この制限言語を活用して、英文や日本文のわかりやすさを向上させることを考える取り組みを行っている。
 CEはPlain English(少ない単語数で表現される簡潔化された英語)とは明らかに違う。前者はグローバルな聞き手にわかりやすい英語、後者はネイティブの聞き手のみにわかりやすい英語である。
 CEの代表的なものがヨーロッパ航空宇宙防衛産業会の開発したASD-STE100 (Simplified English)である。航空宇宙産業では、ある大手メーカーが開発をする際に、何万社もの部品メーカーから部品を調達する。ASD-STE100は、調達関係文書の規格を統一することで、開発の効率化を図ろうとする目的で制定された。ICT時代の「国際共通語」を考えた場合、長い間にわたって発展してきた制限言語を活用しない手はない。
 CEはTechnical Writing(以下、TW)と似ている。TWには以下のルールがある。読者層を限定する、話題の中心となる文章を先に出す、一単語につき一つだけの意味を持たせる、段落ごとに分ける、階層を作り構造化する、パラレリズム(文章を文法的に並列化する)を持たせる。これはTW、ASD-STE100互いに共通する。
 ただし、TWとASD-STE100には違うところもある。ASD-STE100ではセミコロンの使用は「文章が長くなりがちになる」という理由で認められておらず、構造的に理解しやすくなるためのthatを使用することが認められていない。TWではこれらは認められている。そもそもCEとTWでは読み手とする層が異なり、CEはノンネイティブスピーカー、TWはネイティブスピーカーを対象にしている。
 私の定義するCEとは、平易で的確な文章を書くこと、技巧的な表現の使用を制限すること、統語的な構成にすること、句動詞を使わないこと、文書化に適していること、グローバルな聞き手を対象にしていること。ネイティブと非ネイティブの間というよりは、日本人とドイツ人といった非ネイティブ同士でやりとりされる英語である。

 CEを紹介した本

ASD-STE100 Simplified English, Issue 7

 無料でダウンロードできる。

The Global English Style Guide(SAS)

 米国のソリューション系ソフトウェアメーカーのシニアエディターによる本。社員がソフトウェア文書を書いていくなかで誤記したものを全て書き留めて一冊の本にしたもの。アマゾンで入手できる。ルールは、ASD-STE100に比べて柔軟。

Rule-Based Writing―English for Non-Native Writers (tekom)

 ノンネイティブの書き手向けのガイド。タイトルの付け方、インデックスの作り方、総合参照の作り方、用語解説の作り方は非常に役に立つ。
 まとめると

ASD-STE100

 簡潔な文法と語彙で書かれたグローバルな英語。構造化され段落分けがしっかりしている。厳格なルールがある。

The Global English Style Guide

 統語的な要素も含んだグローバルな英語。

Rule-Based Writing

 ライター向けのグローバルな英語。本作りのためのルールがある。
 このような制限言語のルールを世界共通化できないか。例えば英語と日本語など遠い言語間でライティングの共通ルール化は可能か。英語と日本語では、語順、情報量が違うなど、かなり違う点がある。例えば語順。英語は結論ファーストだが、日本語は修飾語ファーストである。また英語は日本語に比べてかなり情報量が多い。例えば主語を明確にしたり、he or sheを示すなど男女の区別を明確にすることがある。英日翻訳に比べて日英翻訳は難しいのはこのためだ。
 英語と日本語は相当離れた言語だが、その二つの共通点を見付け、互いにわかりやすいルールを作れないかと模索した。そこでまとめたのが、「日本文をわかりやすくするためのPLJライティングルール77」。日本文をわかりやすくするためのルールとは、例えば文の長さを適当な長さにする、構文のあいまいさやわかりにくさを防ぐ、修飾関係を明確にする、わかりやすい用語を使う、冠詞を補うなどして数を明確にするなど。
 最後に、今日では日本に年間2,000万人以上外国人が訪れるようになった。外国人には英語が得意でない人もいる。わかりやすい英語だけでなく、わかりやすい日本語も必要だ。

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