日本翻訳連盟(JTF)

私の一冊『英語の新常識』

第9回:英日翻訳者 児島 修さん

『英語の新常識』‎杉田敏著、集英社インターナショナル、2022年

私の語学力の基礎を作ってくれたのは、NHKのラジオ語学講座です。浪人生時代には受験勉強の心強い味方として、20代後半に翻訳者になろうと決意したときには英語学習のやり直しの教材として大いに役立ってくれ、その後も折に触れて番組を楽しんできました。数多くの優れた講師陣のなかでも、個人的に特に印象に残っている、心の師とも呼べる存在が2人います。『英会話』の大杉正明先生と、『やさしいビジネス英語』の杉田敏先生です。

今回は、その杉田氏の多数の著作のなかから、2022年2月に刊行された『英語の新常識』(インターナショナル新書)を紹介したいと思います。本書はそのタイトル通り、長年英語に深く関わってきた著者が、時代の変遷に伴いこの言語がどう変化していったのかを、豊富な事例を挙げながら解き明かしていくという内容になっています。各章は「タブー語」「多様性」「ジェンダー」などのテーマに応じて分類され、幅広いジャンルの新語や今は廃れてしまった語などが、含蓄のあるトリビアと共に、実に腑に落ちる形でわかりやすく説明されていきます。

翻訳者という職業には、高度な語学力が求められるのはもちろん、生き物としての言葉が変容していくその最前線にも立ち会う機会が多いという特性があるのではないでしょうか。本書は英語のプロである同業者の皆様にとっても、仕事にも活かせる新しい発見がいくつも得られる内容になっていると思います。ご興味のある方はぜひお手に取ってみてください。

『やさしいビジネス英語』は1987年に始まり、途中で『実践ビジネス英語』と名称を変え、途中1年半の中断期間を挟みながら2021年3月まで34年間も続いたそうです。本書を読みながら、70代後半を迎えてもなお精力的にご活動されている杉田氏の英語に対する飽くなき好奇心とあふれるような情熱に触れることができ、大きく感銘を受けると共に、私も氏を見習ってこれからもできるだけ長く頑張っていきたい、という勇気をいただきました。

最後に、素晴らしい連載企画に寄稿する機会を与えてくださったJTFジャーナルの皆様、バトンを渡してくださった笠川梢さんに厚くお礼申し上げます。どうもありがとうございました。

◎執筆者プロフィール
児島 修(こじま おさむ)
英日翻訳者(ノンフィクション出版、産業)。立命館大学文学部卒(心理学専攻)。翻訳会社勤務、IT企業社内翻訳者等を経て2008年よりフリーランス。訳書に『サイコロジー・オブ・マネー』『Die With Zero』(ダイヤモンド社)、『シークレット・レース』(小学館文庫)など。

★次回は英日翻訳者の勝田さよさんに「私の一冊」を紹介していただきます。

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