私の一冊『ムギと王さま』
第28回:スウェーデン語/ノルウェー語-日本語翻訳者 中村(今井)冬美さん
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私の手元には背表紙が取れ、ぼろぼろになった本が一冊あります。それはイギリスの作家、エリナー・ファージョン作の『ムギと王さま』です。この本は小学生に上がった時に買ってもらった、私にとって最初のハードカバーの読み物でした。
この本の前書きでは、作者が幼い頃に住んでいた家の「本の小部屋」が紹介されています。エリナーはここで、本を読まないでいることは、たべないでいるのとおなじくらい不自然だった、そして彼女に魔法の窓をあけて、自分の生きる世界や時代とはちがった、また別の世界や時代へと誘ってくれたのは「本の小部屋」だったと書いています。物語集の始まりとして、これほど完璧な前書きがあるでしょうか。
この本には表題作のムギと王さまの他、金魚、レモン色の子犬、西ノ森、小さな仕立屋さん、といった物語が27編おさめられています。
『ムギと王さま』を読むことで、私は「本の小部屋」へ入っていく気持ちになり、エリナーの生みだした心躍る物語の世界を体験することができました。
6歳の頃に、読書とは知らない世界への不思議な旅なのだと知ることができたのは、私にとって大きな幸運でした。
◎執筆者プロフィール
中村(今井)冬美(なかむら(いまい) ふゆみ)
特許翻訳者(英日・日英)。2019年から出版翻訳の勉強を始める。『通訳スウェーデン語、ノルウェー語-日本語翻訳者。主な訳書にエミリー・メルゴー・ヤコブセン『よるくまシュッカ』(百万年書房)、アニータ・コス『自己免疫疾患の謎』(青土社)、ヒルデ&イルヴァ・オストビー『海馬を求めて潜水を』(みすず書房)などがある。
★次回は、英日・日英ビジネス翻訳および日英文芸翻訳者、作家の尾張惠子さんに「私の一冊」を紹介していただきます。