日本翻訳連盟(JTF)

どうする⁉ 翻訳通訳業界
~業界4団体トップが語るこれからの翻訳通訳~
【後編】ディスカッション

「翻訳の日」連動企画 パネルディスカッション

9月30日の「翻訳の日」を記念して、2023年同日、日本の産業翻訳通訳業界を代表する4つの団体によるパネルディスカッションが開催されました。前編「4団体の概要と近年の活動」につづき、後編では、次の4つのテーマについてのディスカッションを採録編集してお届けします。

動画は、2023年10月30日まで、JTF公式Youtubeチャンネルにて視聴できます。
https://www.youtube.com/watch?v=aK_gvdFCxSw&t=542s

[1]コロナ禍で変わったこと・変わらなかったこと
[2]テクノロジー活用の重要性
[3]AIの活用について
[4]翻訳通訳業界の未来について

[登壇者]
一般社団法人 日本翻訳連盟(JTF)会長 安達久博
特定非営利活動法人 日本翻訳者協会(JAT)理事長 狩野ハイディ(リモート参加)
一般社団法人 日本会議通訳者協会(JACI)会長 関根マイク
一般社団法人 アジア太平洋機械翻訳協会(AAMT)会長 隅田英一郎

[司会]
一般社団法人 日本翻訳連盟専務理事 森口功造

[1]コロナ禍で変わったこと・変わらなかったこと

森口(司会):まず今、こうやってパネルディスカッションができておりますが、昨年まではコロナ禍で各団体の活動にも大きな影響があったのではないかと推察しています。その中でどのようなことが変わったのか、あるいは変わっていないのかということも合わせてお伺いできればと思います。

まず、コロナ禍で変わったこと、変わらなかったことというテーマで、関根さん、日本会議通訳者協会ではいかがだったでしょうか。

●仕事ゼロから遠隔業務で回復

関根(JACI):コロナ禍で変わった主なこととしては、コロナ初年度は仕事がゼロになったのですが、企業やクライアントが遠隔での会議の仕方を覚え、通訳者側も遠隔通訳プラットフォームの使い方を自分で覚えて、問題があってもトラブルシュートできるようになってからは、むしろ仕事の総量がすごく増えました。

通訳が以前よりもずっと手軽にアクセスしやすくなったということも、ヨーロッパの研究などでもよく言われています。そして会議を遠隔で行うと、記録を取りやすくなりますよね。それを評価して、通訳のパフォーマンスがすごく厳しくなったということはコロナになってたびたび聞きます。

森口(司会):それは通訳の質が変わったんでしょうか。要求のレベルが上がっているということでなんですね。

関根(JACI):要求のレベルというか、たぶん対面ベースだと、クライアント側がうまく評価できなかったと思うんです。

森口(司会):それができるようになったということなんですか。

関根(JACI):はい。おそらく一部の企業は元の言語の発言と通訳の発言をどちらも録音して、評価しやすくなったということがあります。

森口(司会):それはコロナ禍で変わったことということになりますね。

関根(JACI):そうですね。

森口(司会):あともう一つ、ぜひ伺いたいのは、私もJTFで翻訳祭というイベントを開催する際に、JACIさんのイベント運営を参考にさせていただいたことがあるんですけれども、JACIさんはコロナになっていち早くオンラインイベントをされた印象があります。その理由も含めてお伺いできればと思います。

関根(JACI):コロナは全然予期しなかったことですから、2020年3月にアウトブレイクがあって、その前の2月の時点では私も遠隔のことは知らなかったし、Zoomの使い方もよくわかりませんでした。そこからものすごい勢いで学習していきました。

先ほども少し触れましたが、業界団体もクライアント会社も何もできない状態になって、すべてがストップしてしまいました。個人的にもそういう状況がすごくいやでしたし、こういう不安なときにこそ何か大きなことをやって、業界関係者みんなが連帯しなければいけないんじゃないかなと思って、こういった大きいイベントをやりました。

森口(司会):ありがとうございます。狩野さん、日本翻訳者協会ではいかがだったでしょうか。コロナ禍の中で変わったこと、もしくは変わらなかったこと、何かあればお伺いしたいと思います。

●リモート業務により海外との連携強化

狩野(JAT): JATは今まで対面を大切にしてきた団体であったので、コロナ禍で対面ができなくなって、最終的にはオンラインでのネットワークイベントや勉強の機会を提供してきましたが、最初はどういう形で提供すれば会員が喜ぶのか、使いやすいのかといろいろ迷いがありました。いまJACIの関根さんの、誰も何もやらないという意見を聞いてちょっと反省しました。もう少し早く動けばもっと会員のためにもなっていたと思います。

また、関根さんが通訳者業界の変化について触れていましたが、翻訳者にとっては、特に日本では、今までリモートはなじみがない仕事のやり方でした。それが、リモートになじんでくると、私のような海外に住んでいる翻訳者でも日本の企業と仕事ができるようになりました。また、日本国内に住んでいる英日、独日の翻訳者もヨーロッパから仕事が取りやすくなりました。SNSでマーケティング活用をしたり、個人の翻訳者がより活発になって企業とつながることができるようになったのも、コロナ禍における、よいきっかけの一つだったかなと思っています。

森口(司会):ありがとうございます。安達さんが会長を務める日本翻訳連盟ではいかがですか。今、狩野さんからも働き方の変化があったというお話がありましたが、JTFは翻訳祭の運営をしていましたけども、そういったイベントだとか働き方だとか、それ以外にも変わったこと、変わらなかったことをお伺いできればと思います。

●時間や場所の制約を超えて

安達(JTF):コロナ以前はJTFでもイベントやセミナーは、基本的には会場にみなさんに来ていただいて交流を図るとか、講演を行うのが普通でした。それができなくなったということで悩んでいた時期に、さきほど司会の森口専務理事からありましたけれども、「JACIが1カ月間フルで何かリモートでやるみたいだよ」という話を聞いて、JTFでも急遽、翻訳祭をリモート開催に切り替えることにしました。会場をキャンセルしてイチからプログラムを組み直し、こうしてなんとかリモートで開催することができるようになりました。

翻訳祭は関西圏、関東圏、それ以外の地域にいる実行委員の人たちが一緒に企画していくのですが、コロナ前は遠隔の会議をやろうとすると、今のZoomのように簡単に誰でも参加できるウェブ会議ツールがなかったので、テレビ会議システムがあるところに集まって行うという形でした。それがZoomやそれ以外のそういうツールが普及し、気軽に簡単にリモートで打ち合わせなどができるようになったのはある意味、画期的だったと思います。

また、リモートに切り替えたことによって、いい面と悪い面がいろいろありましたけれども、いい面としては、やはり会場に行かなくてよくなったことですね。また、録画していますので、その時間帯に見られなかった場合でも1カ月以内なら配信で見ることができるとか、ある意味便利になったということがあります。それから海外にいる人もリモートで参加できる。以前はその会場に行かなければならなかったけれども、行かなくても参加したり視聴したりすることができるのは、けっこう大きな変化だったと思います。

JTFの法人会員などにとっても、これまでは対面で、あるいはチーム活動ですので会社に全員が出社して活動する、特に営業部隊や制作部隊はあくまでも会社に出社してそこで情報交換なりチーム活動をしていたのが、急遽リモートでやることになって、最初は戸惑いがありました。翻訳者や個人会員の方は「我々はもともと在宅ですから」ということで、割とスムーズにメールのやり取りなどもうまくいくようになりましたし、だんだんみなさん慣れてきて「通勤がないのがいいな」といった声もあり、働き方が変わってきました。

最近はコロナが5類に移行したということもあり、以前のように会社に通勤して活動を行うという形になってきているという法人もけっこう多いですね。今後、どういう働き方がいいのかというのは、法人会員、個人会員も含めて変わっていくかと思いますが、みなさんが働きやすい方向に変わっていってもらえればいいんじゃないかと感じております。

森口(司会):ありがとうございます。最後にアジア太平洋機械翻訳協会の隅田さん、コロナ禍で変わったこと、変わらなかったことというテーマでいかがでしょうか。

●テクノロジー普及の契機にも

隅田(AAMT):ちょっと違う視点で考えますと、みなさん、リモートの会議が普通になったおかげで、隙間なく会議が入ってくるという状況になっていると思うんです。これはコミュニケーション量が膨大になってきているということですし、情報が記録されるし、送信されるという事態になっています。相手が外国人でも気軽につながることができるようになり、しかもZoomなどに音声を文字化したり文字を翻訳したりする機能が入ってきて、ではもう少しいいものはないのかということで研究に拍車がかかる。このようにコロナ禍というこれまでに全く無かったものの影響によって、今までのテクノロジーが一気に普及して状況が大きく変わり、自動翻訳の研究開発にはものすごくよいブーストになったということがございます。

特にニューラル機械翻訳になって研究がものすごく活発になっており、進歩もすごい勢いで進んで、これを本当に使えるものにしていきたいと思っていますし、あと一歩と思っております。コロナという、どこから来たかわからないものだけれども、技術の進歩という意味ではすごくいい変化を世界中に起こしているんじゃないかと思っています。

森口(司会):ありがとうございます。

次ページ>

1   

←【前編】4団体の概要と近年の活動

共有