第23回日英・英日翻訳国際会議(IJET-23 広島)報告

第23回 日英・英日 翻訳国際会議(IJET-23 広島) レポート

我妻 美誉(わがつま みよ)
TJ Prannarai Communication Co., Ltd. ディレクター

 



名称●第23回日英・英日翻訳国際会議(IJET-23 広島)
期間●2012年6月2日(土)~ 3日(日)
場所●広島国際会議場 (広島県広島市)
主催●日本翻訳者協会(JAT = Japan Association of Translators)
詳細●http://ijet.jat.org/ja/

 



一度は訪れてみたいと思っていた広島でIJET23が開催されるという夢のような情報を頂き、バンコクからの参加を即決しました。

タイだけに留まらず、日本をはじめとした翻訳業界の現状や今後の展望を知るため、そして多くの翻訳業界関係者と情報を交換し、ネットワークを構築できたらという思いから、IJETに参加できる日を心待ちにしていました。

IJET初参加。広島も初めてとあって、期待と嬉しさばかりが先行する中、移動日に訪れた平和記念資料館。平和記念公園の慰霊碑や祈念碑を目の当たりにして、様々なストーリーがあったことを思うと、何ともいたたまれない気持ちになりました。緑あふれる美しい町並みの中にも忘れてはならない歴史を感じさせてくれる広島は、国籍を問わず一度は訪れたい、訪れて欲しい地です。

さて、肝心のセッションですが、予想以上に多国籍の人たちの参加が多く、国際色豊かな会議となりました。私は翻訳会社という立場から今回参加させて頂きましたが、翻訳者や通訳者といった、同業界にいながらも異なる視点で「翻訳」について考え語り合う機会をもてたことが何よりの収穫です。

初日に参加した「翻訳の品質管理」パネルセッションでは、「翻訳品質に対する評価基準」が大きく取り上げられました。翻訳者や翻訳会社が良しと思って納品した翻訳文が、クライアントの手により全く異なる方向へ手直しされ、フィードバックされるという経験をした方もいらっしゃるかも知れません。文脈を読み込み、導き出された翻訳者の巧みな表現が、単に辞書の用語そのままに置き換えられて戻ってきてしまうと、何とも無念な気がしてなりません。翻訳提供者と発注者の間にある「翻訳品質に対する認識のずれ」は、納品後に誤訳や低品質の翻訳文として捉えられてしまう恐れが往々にしてあります。翻訳を提供する側は、事前にクライアントと品質基準をすり合わせる必要があり、そこで、クライアントやエンドユーザが何を求めているのかを把握しておくべきです。必要に応じ、納品物に訳注をつけたり、翻訳者の解釈を明確に伝えることも、誤訳ととられない工夫なのでしょう。翻訳提供者から提案を行うことにより、プロジェクトに関わる全ての人が品質の基準を共有できるよう心がけていきたいものです。

2日目の「翻訳会社の本音」セッションでは、終わりの見えない価格競争を生き抜いている翻訳業界の厳しい現状がひしひしと伝わってきました。クライアントのコスト削減→価格第一の相見積もり→翻訳者への翻訳料圧迫の流れは、今尚続いており、今後一層競争が増すことが予想されます。2010年頃から発注価格が低下してきているという話も出されました。

そんな状況下において、昨今、クライアントの要求は多様化してきており、既存の翻訳だけに留まらず、文書のデータ化や議事録作成、書き起こし、多言語対応など問い合わせの幅も多岐にわたってきています。こういった要望に、如何にネットワークを駆使しNOと言わずに対応していくか、これがクライアントとの信頼関係を築くのに非常に重要な要素になってきます。フットワークの良い臨機応変な対応は必要不可欠で、また対応が早ければ印象が良いというのは言うまでもありません。素早い返答や細かいフォローが大きな成果をあげることも忘れてはならないのです。

日本の大手翻訳会社では、登録翻訳者の稼働率は40%ほどだそうです。当社の場合を考えてみても似たような状況で、約43%でした。翻訳会社では翻訳者をカテゴライズし「スピードは早いが雑な人」「語学力は高いが専門性に欠ける人」「リファレンスや資料に忠実な人」などといったように分類しているという話がでました。クライアントの要求に応じて、スピード・専門性・表現力などから最重要項目を割り出し、それに適した翻訳者を随時割り当てていきます。全てを兼ねそろえた人がいればベストですが、他人にはない何かがある人は、やはり翻訳会社としては必要な人材と言えます。

翻訳会社は常に良い翻訳者を求めています。良い翻訳者とは語学力や専門性に優れた翻訳者であるだけではなく、翻訳会社の手間を省いてくれる存在でもあるのです。提供された資料を全く無視しての翻訳や、質問事項1つに対してメールや電話が毎回くるのでは、コーディネーターはその都度作業を中断しなければなりません。翻訳者、翻訳会社、クライアント、それぞれの立場を十分に理解し、柔軟な対応を心がけてくれる翻訳者は、必然的に翻訳のリピートオーダーにも繋がっていきます。細かなクライアントからの指示を的確に対処できる翻訳者もまた、翻訳会社にとっては非常に有り難い存在なのです。

世界各国から集まった翻訳者・通訳者・翻訳会社などが一堂に会し、様々な角度から翻訳の現状を見、知り、考えることができたこと。法人個人を問わず翻訳業界のネットワークが確実に広がったこと。今回IJET23に参加し、非常に大きな手応えを感じました。楽しい中にも有意義な時間を過ごせたことに感謝しつつ、今回得た情報とネットワークを大切に、新たな戦略に活かしていきたいと思います。今回お知り合いになれました参加者の方々とも今後良いビジネスパートナーとして、繋がっていければと思います。最後にIJET23実行委員会の皆様、素晴らしい勉強と交流の場をご提供いただきまして、本当にありがとうございました。





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