日本翻訳連盟(JTF)

私の一冊『小説の技巧』

第17回:日英・英日翻訳者 内田順子さん

『小説の技巧』デイヴィッド・ロッジ著、柴田元幸・斎藤兆史訳、白水社、1997年

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小説家が読者を作品の世界へ導くために用いる、修辞的な技法を50の章に分けて解説した本です。十九世紀から二十世紀の文学作品の一節がまず引用され、続いてそこに使われている技巧を著者ロッジが解説する構成になっています。

ポイントは本書自体が翻訳書であること。原著の引用部は原典をそのまま引いていますが、翻訳ではすべて柴田・斎藤が本書のために起こした新訳になっています。つまり、作風も世界観も違う50以上の作品を翻訳家が訳し分けた、事例の集大成としても読める本なのです。また、解説されている技巧が訳文にも生きていなければ成立しない、という縛りもあり、そこがどう料理されているのか、気になりだすと何度でも読み返したくなります。

私は仕事で、他者の翻訳を添削する機会が多いのですが、実は「何を書くか」を間違えるという明白な誤訳は、もう人でも機械でも少なくなっていて、翻訳の問題はほとんどが、「どう書くか」の間違いではないかと最近とくに感じます。どう書くかを考えるためのお手本として、もちろん海外文学の案内書としても、楽しんで読める一冊です。

◎執筆者プロフィール

内田 順子(うちだ なおこ)
日英・英日翻訳者。ミドルベリー国際大学院モントレー校翻訳通訳科卒。アメリカ翻訳者協会(ATA)認定翻訳者。主な専門分野はローカリゼーション。カナダのサイモンフレイザー大学で日英・英日翻訳講座を教えている。JAT新人翻訳者コンテスト英日部門一次審査員。

★次回は、出版翻訳者の新田享子さんに「私の一冊」を紹介していただきます。

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